プログラムノート

第77回 2021年4月18日(日) 『20周年ガラ』

J. ウィリアムズ:映画『スター・ウォーズ』より「王座の間とエンドタイトル」
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26 より 第3楽章
ヴァイオリン:三浦文彰
サン゠サーンス:チェロ協奏曲第1番 イ短調 作品33 より 第3部
チェロ:横坂 源
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23 より 第3楽章
ピアノ:金子三勇士
エルガー:行進曲『威風堂々』作品39 より 第1番 ニ長調

「こども定期演奏会 2021」テーマ曲

石井かのん:『まぼろし』
『まぼろし』
石井かのんさん(中学1年生)からのコメント
私は以前こども奏者としてこども定期演奏会に出演させていただきました。サントリーホールという大舞台で演奏できる喜び。オーケストラの迫力ある音。一生忘れることのできない素晴らしい思い出です。
この曲は昨年のこども定期の帰りに思いついたメロディーから作りました。dolceの優しい旋律から始まり、ときに激しくときに弾むように「まぼろし」の中を旅するようなイメージです。
音は私たちを、そこでしか味わえない世界の中に引き込む力を持っています。この曲によって、皆さんを音楽の夢の世界にお招きできたら嬉しいです。

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

J. ウィリアムズ:
映画『スター・ウォーズ』より「王座の間とエンドタイトル」

映画『スター・ウォーズ』は、1977年に第1作が制作されて以来、番外編の物語なども含めると全部で11作が作られてきました。そのすべての作品で音楽を手がけているのがアメリカの作曲家ジョン・ウィリアムズ(1932~ )です。彼は『スター・ウォーズ』のほかにも、『未知との遭遇』『E.T.』などのSF映画、『インディ・ジョーンズ』シリーズのようなアドヴェンチャー映画、『ハリー・ポッター』のようなファンタジー映画など、数々の名作映画の音楽を作ってきました。また、アメリカで行われたオリンピック(ロサンゼルス、アトランタ、ソルトレイクシティ)の音楽も作曲しています。
「王座の間とエンドタイトル」は、『スター・ウォーズ』第1作「エピソード4 新たなる希望」の最後に流れる音楽です。激しい戦いで勝利したルーク、ソロ、チューバッカという登場人物が、その功績を称えられレイア姫から勲章をもらうセレモニーのシーン、そして映画のエンドロールへと続く、晴れやかで堂々とした音楽です。

ブルッフ:
ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26 より 第3楽章

作曲家が曲を書くときに、演奏してもらいたい人のことを考えながら作曲したり、その人からアドヴァイスをもらうことは珍しくありません。ドイツの作曲家マックス・ブルッフ(1838~1920)もヴァイオリン協奏曲第1番を作った時には、ヨーゼフ・ヨアヒム(1831~1907)という立派なヴァイオリニストの友人にいろいろとアドヴァイスをもらいました。ヨアヒムは、少しあとにブラームスがヴァイオリン協奏曲を作った時にも、やはりアドヴァイスをしたことで知られています。なお、協奏曲とは、独奏者(ソリストともいいます)とオーケストラによって演奏される曲のことで、独奏者は堂々と演奏の腕前を披露します。
ブルッフがこの曲を書き上げ、最初に演奏されたのは1866年。彼はその出来ばえに満足できず、何人かのヴァイオリニストに意見を求めました。当時もっとも有名だったヴァイオリニストのヨアヒムも、彼の相談にこたえてくれました。ようやく2年後に完成し、新バージョンはヨアヒムに捧げられ、彼の独奏で初演されました。今日演奏される第3楽章は、この協奏曲の最後の楽章です。音を重ねて素早く奏でられるヴァイオリンのモティーフが印象的で(ブラームスの協奏曲の第3楽章のモティーフに雰囲気が似ています。ひょっとするとブラームスに影響を与えたのかもしれません)、華やかなフィナーレとなっています。

サン゠サーンス:
チェロ協奏曲第1番 イ短調 作品33 より 第3部

次に演奏されるのはチェロが独奏する協奏曲です。作曲者はフランス人のカミーユ・サン゠サーンス(1835~1921)。今年はサン゠サーンスがこの世を去ってから、ちょうど100年目に当たります。86歳まで生きたサン゠サーンスは(クラシックの作曲家の中ではとても長生きした人です!)フランスの音楽界を盛り上げようと「国民音楽協会」というグループを作り、リーダー的な存在となって活躍しました。
チェロ協奏曲第1番(1872年、サン゠サーンス37歳のときの作品)は、少し作りが変わっています。「協奏曲」というと、3つの楽章によって構成するのが当時のほぼお決まりのパターン。しかしサン゠サーンスは、「単一楽章」というスタイルをとり、全体をわりとコンパクトにまとめました。全体は3つの部分に分けることはできますが、それらが途切れなくつなげて演奏されるのです。実はこうした方法で協奏曲を作るのは、サン゠サーンスにとっては初めてのことではありませんでした。先駆けて発表されたヴァイオリン協奏曲第1番でも同じように、単一楽章で書かれています。今日演奏される第3部は颯爽としたテンポで進み、ロマンティックなメロディーも登場します。

チャイコフスキー:
ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23 より 第3楽章

今では誰もがみとめる傑作も、最初は周りから理解されなかったというようなことはよくあります。ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93)のピアノ協奏曲第1番もそうした作品の1つです。
1874年、34歳のチャイコフスキーにピアノ協奏曲を書くようにと勧めてくれたのは、ピアニスト・指揮者・モスクワ音楽院を作った教育者でもあるニコライ・ルビンシテイン(1835~81)という人で、チャイコフスキーの親友でした。曲が完成したらルビンシテインに捧げようと考えていましたが、「この曲は不格好で演奏できない。書き直すべきだ」とルビンシテインは強く批判したのでした。チャイコフスキーは友人のアドヴァイスに耳をかさず(ブルッフとは正反対ですね)、自分の信じるままに筆を進めました。そして1875年、アメリカのボストンで初演されたときには大成功を収めたのです。ルビンシテインはその後、ようやくこの作品の素晴らしさに気づいたのでしょう、モスクワで初演し、その後何度もこの曲を指揮しました。今日演奏される第3楽章は、ウクライナ地方の舞曲のリズムをベースとする生き生きとしたフィナーレです。

エルガー:
行進曲『威風堂々』作品39 より 第1番 ニ長調

『威風堂々』は、イギリスの作曲家エドワード・エルガー(1857~1934)による6曲からなる行進曲集です。まさに堂々としていて輝やかしい第1番は、1901年に作曲されました。A―B―Aという三部形式で書かれています。力強い序奏をもった行進曲で開始し、中間部では少しテンポを落として美しいメロディーが朗々と歌われます。
エルガーは国王エドワード7世から勧められ、この美しいメロディーに歌詞を加えることにしました。そして王様の戴冠式のために作曲した『戴冠式頌歌』という作品の中でも、最終曲の「希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)」として、再びこのメロディーを使いました。それ以来、このメロディーはイギリスの人々にとって大切な曲として親しまれ、音楽祭などではお客さんも総立ちになり、「第二のイギリス国歌」として大合唱されます。

コラム
「ガラ・コンサート」ってなぁに?

こども定期演奏会は今年で20周年を迎えました!今日の演奏会には「20周年ガラ」というタイトルがついています。「ガラってなんだろう?」と思った人もいるかもしれませんね。ここではガラ・コンサートについて解説します。
「ガラ」とは、古いフランス語の「gale」という単語から来ています。「お祝いごと」や「みんなで喜ぶこと」といった意味です。それがイタリア語やスペイン語の「gala」という単語にもなって、17世紀の初め頃には「華やかな服装」といった意味としても使われるようになりました。つまり「ガラ」は、「おめでたいことをお祝いしようと、みんなでオシャレをして集まるお祭りのような催し」といった意味なのです。
ですから、「ガラ・コンサート」とは、特別にお祝いムードのあるコンサート、みんなで華やかに着飾って集まる音楽会です。本格的なガラ・コンサートでは、お客さんも男性はタキシード、女性はイブニングドレスや着物などで着飾り、優雅なパーティーのような雰囲気となります。ここサントリーホールでも定期的にガラ・コンサート(正装コンサート)を開き、ゴージャスな社交の場としてのコンサート文化を作ってきました。
「ガラ・コンサート」は、プログラムもふつうのコンサートと少し違います。今日の演奏会でも、3人ものソリストたちが登場する協奏曲が3つもあり、とても華やかな楽章や部分が演奏されます。こうしたコンサートは普段は見かけません。また多くの「ガラ・コンサート」では、歌手が何人も登場してオペラの一番の聴かせどころの歌を歌ったり、バレエ音楽の一部が演奏されたり、短く明るく楽しい曲が次々と演奏されます。

(文 飯田有抄)