プログラムノート

第76回 2020年12月13日(日) 『ロシア』

チャイコフスキー:バレエ音楽『眠れる森の美女』作品66 より「ワルツ」
チャイコフスキー:バレエ音楽『白鳥の湖』作品20 より
「情景」「4羽の白鳥の踊り」「終曲」
チャイコフスキー:バレエ音楽『くるみ割り人形』作品71 より
「行進曲」「金平糖の精の踊り」「中国の踊り」
プロコフィエフ:バレエ音楽『ロメオとジュリエット』作品64 より
「モンタギュー家とキャピュレット家」
ヴァイオリン:石黒凜生(小学3年生)、 西村真由(小学5年生)、菊地万莉香(小学6年生)、 有富愛裕(中学2年生)
チェロ:近藤諒弥(中学3年生)
クラリネット:高木風歌(小学6年生)
トランペット:金井信之介(小学4年生)、 松本龍大(中学1年生)
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 作品96

「こども定期演奏会 2020」テーマ曲

山下華音:『ハムスターパーティー』
『ハムスターパーティー』
山下華音さん(小学3年生)からのコメント
大きなホールで100ぴきのハムスターたちがクリスマスパーティーをしています。ステージでは、げきやダンスにバレエなどをはっぴょうしています。
ずっとパーティーが続いたらいいのにな。
わたしはきょくを作ることが大すきです。このきょくは1年生の冬に作りました。そしてテーマきょくように少しかえておうぼしました。
えらばれたときはびっくりしたけど、とてもうれしかったです。
7月5日の演奏会で、はじめてオーケストラで演奏されたこの曲をききました。和田さんの考えてくれたへんきょくは、たくさんの楽器が豪華な音をだしていて楽しかったです。

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

チャイコフスキー:
バレエ音楽『眠れる森の美女』作品66 より「ワルツ」

みなさんはバレエを観たことがありますか? ダンサーたちのしなやかで美しい踊り、ゴージャスな衣装、物語の世界がそのまま現れたようなステージや照明。とても華やかな世界が目の前で繰り広げられるバレエ公演ですが、そこに欠かすことのできないのが音楽です。オーケストラが奏でるステキな音楽があってこそ、バレエダンサーたちの踊りが生き生きと表現されます。
ロシアを代表する作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93)は、オーケストラのカラフルな美しい音色を十分に生かして、すぐれたバレエ音楽を残しました。なかでも本日演奏される『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』は彼の“3大バレエ”と呼ばれています。
最初に演奏されるのは『眠れる森の美女』です。オーロラ姫は16歳の誕生日に、悪の精カラボスの呪いによって、糸紡ぎの針を指に刺してしまい、永い眠りについてしまいます。彼女の目を覚まさせるのは、優しい王子さまのキスだけ……。そんな童話をもとにしたバレエです。チャイコフスキーは振付師と相談しながら作曲をしました。「ワルツ」はオーロラ姫の誕生祝いで村娘たちが花輪を手に踊るシーンの優雅な音楽です。

チャイコフスキー:
バレエ音楽『白鳥の湖』作品20 より
「情景」「4羽の白鳥の踊り」「終曲」

『白鳥の湖』は、チャイコフスキーが最初に作ったバレエ音楽です。今では、クラシック音楽の代表曲くらいに有名で、きっとみなさんもどこかで耳にしたことがあるかもしれません。しかし、1877年に初めて上演されたときは、あまり評判がよくありませんでした。なぜかというと、それまでのバレエ音楽というのは、たんなる踊りの伴奏であって、あまり立派な音楽ではなかったのです。チャイコフスキーが作ったとてもゴージャスな音楽に、当時の演奏家もダンサーもお客さんも、みな驚かずにはいられなかったのかもしれません。しかし、チャイコフスキーが亡くなって2年が経ったときに、振り付けなどが改良されたバージョンは大人気となりました。
「情景」は、悪魔によって白鳥の姿にされたオデット姫とジークフリート王子が愛に満ちた踊りを披露する場面の音楽で、オーボエがとても有名なメロディーを奏でます。「4羽の白鳥の踊り」は、ファゴットが弾むようなリズムを奏でます。「終曲」は、結ばれぬ愛を嘆くオデットとジークフリートが湖に身を投げる最後の場面の音楽です(演出によっては、さまざまな結末があります)。「情景」のメロディーが速いテンポで登場し、音楽は壮大なクライマックスを迎えます。

チャイコフスキー:
バレエ音楽『くるみ割り人形』作品71 より
「行進曲」「金平糖の精の踊り」「中国の踊り」

クリスマス・イブの日、少女クララにプレゼントされたくるみ割り人形が、夜には王子に姿を変え、クララとともにお菓子の国で華やかな時を過ごす……。ドイツの作家E. T. A. ホフマン(1776~1822)の童話『くるみ割り人形とねずみの王様』をもとにした『くるみ割り人形』は、チャイコフスキーが手がけた最後のバレエで、1892年に初めて上演されました。
軽やかなファンファーレで始まる「行進曲」は、クララの家の大広間に飾られたクリスマスツリーの周りで、子どもたちが楽しそうに踊る場面の音楽です。「金平糖の精の踊り」は、弦を指ではじく弦楽器のひそやかな伴奏にのって、チェレスタという鍵盤楽器がキラキラとした音色で不思議なメロディーを奏でます。「中国の踊り」はお茶の妖精が可愛らしく踊る場面の音楽です。ファゴットとコントラバスの伴奏にのって、フルートが元気いっぱいに登場します。

プロコフィエフ:
バレエ音楽『ロメオとジュリエット』作品64 より
「モンタギュー家とキャピュレット家」

シェイクスピアによる有名な劇『ロメオとジュリエット』をもとにした音楽は、オペラやオーケストラ曲などがありますが、バレエ音楽としてよく知られているのがセルゲイ・プロコフィエフ(1891~1953)による作品です。
このバレエが初めて上演されたのは1938年ですから、『くるみ割り人形』よりも半世紀ほど後ということになります。その頃、ロシアはソヴィエト連邦という国になっており、政治家たちは作曲家に「だれにでもわかるような、単純な音楽を作らなければいけない」と命じていました。プロコフィエフは、いっときはそんな自由のないソヴィエトを離れてアメリカなどの外国に渡っていましたが、『ロメオとジュリエット』を作曲していた時期に祖国に帰りました。国の命令にそむかないようにしながらも、自分の芸術性を見失わないようにユニークな音楽を表現していたプロコフィエフ。敵対する二つの家族を描いた「モンタギュー家とキャピュレット家」にも、独特のリズムとハーモニーが感じられます。テレビドラマやCMなどでもよく使われてきた曲です。

ショスタコーヴィチ:
祝典序曲 作品96』

ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906~75)もまた、プロコフィエフと同じ時代に生きたソヴィエト連邦の作曲家です。ショスタコーヴィチもやはり政治家たちからの厳しい命令に従わなければならなかったので、自由にのびのびと作曲することは許されませんでした。しかし彼のオーケストラ曲やオペラやピアノ曲などには、ちょっぴり皮肉めいた独特の表現や、言いようのない暗さや、時にはふっきれたような明るさがあります。
『祝典序曲』は、1954年に開かれたロシア革命を記念する演奏会のために、政治家にたのまれて、わずか数日間で作曲されました(1947年にすでに作曲されたという説もあります)。金管楽器とティンパニの立派なファンファーレで始まり、さっそうとしたメロディーをクラリネットが奏で、フルートや弦楽器などにもその勢いが広がっていきます。
この曲は、ソヴィエト連邦のトップに君臨していたスターリンが亡くなった翌年に発表された作品です。スターリンは人々を厳しくしめつける政治家だったので、ショスタコーヴィチはひとつの時代が終わったことを感じたのかもしれません。そのためなのでしょうか、この曲はとても明るく、勢いに満ちています。

コラム
季節を知らせる世界の景色~寒さの厳しいロシアの冬

今日のコンサートのテーマとなる国は「ロシア」です。この大きな国を地球儀や世界地図で見てみると、北に位置していることがわかります。冬はとても長く、寒さがとても厳しい国です。首都のモスクワでは、冬の平均気温はマイナス10度くらい。しかしロシアはとても広い国ですから、もっとも寒さの厳しい地域では、マイナス30~40度まで下がるそうです。
そんなに寒い場所で、ロシアの人々はどうやって凍えずに過ごしているのでしょう。じつは、お家の中はとても暖かなんです。「ペチカ」というレンガなどで作られた大きな暖炉があって、それでいくつもの部屋を同時にポカポカと温めているのです。
また、体の中から温めてくれるのが美味しい料理や飲み物。ビーツという大根のような赤い野菜を使った「ボルシチ」というスープがあります。にんじんやキャベツなどたくさんの野菜や、牛肉も入った栄養満点のスープです。また、ロシアの人たちは紅茶もたくさん飲みます。紅茶にはお砂糖のほか、ヴァレニエという果物の砂糖煮が添えられます。果物の形がしっかり残っているので、ジャムと似ているけれど、ジャムではありません。イチゴやさくらんぼやプラムなどの入った、ビタミン豊富なヴァレニエを食べて、寒さに負けない体をつくります。また、大人たちはウォッカなどのお酒を少し加えることもあります。
外に出る時は、モコモコの帽子や丈の長いコート、そして厚手のブーツや手袋で、しっかり体を包みます。日本でスキーやスノーボードをする時の格好くらい、しっかり着込んでいる状態が、ロシアの人たちの冬の定番です。
そういえば、ロシアの音楽作品って、音の数がとても多くて、分厚いサウンドが特徴的。聴いていると体温が上がってきそうな、熱~い雰囲気のものが多い気がします。音楽で、心もポカポカと暖かくなりそうです。

(文 飯田有抄)