プログラムノート

第75回 2020年9月6日(日)『アメリカ』

ジョプリン(ホルコム、ロスロック 編曲):『エンターテイナー』
ジョプリン(ローソン 編曲):『メイプル・リーフ・ラグ』
ガーシュウィン:『ラプソディー・イン・ブルー』
アンダーソン:『タイプライター』
アンダーソン:『サンドペーパー・バレエ』
ライヒ:『クラッピング・ミュージック』
バーンスタイン:『ウエスト・サイド・ストーリー』より「マンボ」

「こども定期演奏会 2020」テーマ曲

山下華音:『ハムスターパーティー』
『ハムスターパーティー』
山下華音さん(小学3年生)からのコメント
大きなホールで100ぴきのハムスターたちがクリスマスパーティーをしています。ステージでは、げきやダンスにバレエなどをはっぴょうしています。
 ずっとパーティーが続いたらいいのにな。
 わたしはきょくを作ることが大すきです。このきょくは1年生の冬に作りました。そしてテーマきょくように少しかえておうぼしました。
 えらばれたときはびっくりしたけど、とてもうれしかったです。
 7月5日の演奏会で、はじめてオーケストラで演奏されたこの曲をききました。和田さんの考えてくれたへんきょくは、たくさんの楽器が豪華な音をだしていて楽しかったです。

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)


ジョプリン(ホルコム、ロスロック 編曲):
『エンターテイナー』

 「エンターテイナー」とは、 英語で歌やダンスやお笑いなどの芸によって、 人を楽しませる人のことを言います。タイトルのとおり、この曲はとても明るくて楽しい気分にしてくれます。アメリカ合衆国の南にあるテキサス州で生まれたアフリカ系アメリカ人の作曲家スコット・ジョプリン(1867/68~1917)という人が作りました。ジョプリンは、20世紀の初めにアメリカでとても人気となった「ラグタイム」という、おもにピアノで演奏されるリズミカルな音楽をたくさん作り、「ラグタイム王」と呼ばれました。ラグタイムは、ジャズのもとになった音楽とも言われています(ジャズについては、11頁のコラムもみてくださいね)。1902年に作曲された『エンターテイナー』は、もともとはピアノのために作られた曲ですが、とても有名なので、みなさんもどこかで聴いたことがあるかもしれません。

ジョプリン(ローソン 編曲):
『メイプル・リーフ・ラグ』

 もう一曲、ジョプリンのラグタイムを聴いてもらいましょう。こちらも『エンターテイナー』と同じくらいに有名なジョプリンの代表作です。「メイプル・リーフ」とは、日本語にすれば「カエデの葉」という意味です。なぜこのタイトルが付いているかというと、ジョプリンがこの曲を作った1899年、「メイプル・リーフ」という名前のクラブ(人々がお酒を飲んだり食事をしながら、音楽やダンスを楽しんだ場所)にジョプリンが出演していたからなのだそうです。もともとはやはりピアノで演奏する曲でしたが、今ではさまざまな楽器で演奏されています。

ガーシュウィン:
『ラプソディー・イン・ブルー』

 作曲者のジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)も、アメリカの音楽を語る上では欠かせない作曲家です。若い頃に自分でピアノを勉強し、ポピュラー・ソングやミュージカルの作曲家として成功を収め、売れっ子ミュージシャンとなりました。そんなガーシュウィンの名前をクラシック音楽の歴史にも残すことになったのが、1924年に作られたピアノとオーケストラのための『ラプソディー・イン・ブルー』です。この曲の大きな特徴は、アメリカで誕生したジャズと、ヨーロッパで生まれたクラシック音楽とが、かっこよくミックスされているところにあります。
 「ラプソディー」というのは、自由な形で(つまり、「ソナタ形式」とか「ロンド形式」とかの型にはまらないで)作られた音楽で、日本語では「狂詩曲」と訳される言葉です。「ブルー」というのは、ジャズの音階の中にある半音低くされた音を「ブルー・ノート」と呼ぶので、そこから曲名に使われました。ピアノとオーケストラとの華やかな共演にも注目して聴いてくださいね。

ロッシーニ:
オペラ『セビリャの理髪師』序曲

 ふたたびイタリア生まれの作曲家に戻りましょう。ジョアキーノ・ロッシーニ(1792~1868)は、人気オペラを手がけた天才的な作曲家。彼の作るオペラは、音楽の都ウィーンをはじめとしてヨーロッパ中で大ヒットしました。作曲するのがとても速く、短期間に多くの作品を手がけた彼は、オペラ『セビリャの理髪師』を2週間もかけずに仕上げたそうです。そんなロッシーニは、作曲家を引退するのもとても早く、まだ37歳という若さでパタリとオペラを書かなくなりました。その後は大好きなお料理を食べまくる美食家に転身! 牛ヒレ肉の料理に「ロッシーニ風」というものがありますが、それは彼が生み出した料理なのです。
 話がそれてしまいましたが、『セビリャの理髪師』はロッシーニのオペラの中でもとくによく知られています。ロジーナという美しい娘と、彼女を恋する伯爵、遺産目当ての医者バルトロといった人物たちによるドタバタコメディです。「序曲」とは、歌手が登場する前に、オーケストラだけで演奏される音楽のこと。華やかな出だしに続いて、歌うような美しいメロディーが現れたあと、シリアスでスピーディーに進む音楽となり、また軽やかなメロディーが現れて……と、聴いているだけでワクワクしてきます。実は別のオペラに書かれた序曲を使いまわしただけだったそうなのですが、今では『セビリャの理髪師』の序曲としてすっかりおなじみです。

アンダーソン:
『タイプライター』

 ルロイ・アンダーソン(1908~75)は、数々の楽しいオーケストラ曲を作ったことで知られるアメリカの作曲家です。有名な曲に、クリスマスの時期によく聞かれる『そりすべり』や、トランペットが大活躍する『トランペット吹きの休日』などがあります。どこにも気難しいところがなく、だれにでも親しみやすい音楽ばかりです。彼の音楽はレコードやテレビなどを通じて、人々に愛されるようになりました。
 さて、この『タイプライター』という曲には、本物のタイプライターが登場します。と言っても、おそらくみなさんはタイプライターを知らないでしょうね。今では文字を機械で打つときはパソコンやスマートフォンが使われますが、昔はタイプライターという機械が使われていたのです。ガシャンガシャンとけたたましい音をさせながら、紙に直接文字を印刷していく機械です。アンダーソンは、そんなタイプライターをオーケストラの中で使ってユーモラスな曲を作りました。忙しそうに会社で働く人の様子が、音楽から伝わってきますね。

アンダーソン:
『サンドペーパー・バレエ』

 もう一曲、アンダーソンの作品です。今度はタイプライターではなく、サンドペーパー、つまり紙やすりの登場です。紙やすりをこすり合わせるとシャシャシャ……という独特な音が出ますが、アンダーソンはその音を巧みにオーケストラの中に取り入れました。ちょっとトボけた感じのメロディーと、この紙やすりの音が微妙にマッチして、とても楽しい音楽となっています。

ライヒ:
『クラッピング・ミュージック』

 少ない音のまとまりを、あえて何度も何度も繰り返し、ちょっとずらしたり、またピタッと合わせたりする音楽があります。20世紀にアメリカで生まれたミニマル・ミュージックと呼ばれる音楽です。スティーヴ・ライヒ(1936~ )は、いちはやくミニマル・ミュージックを広めた作曲家の一人です。
 「クラッピング」とは拍手のこと。この曲では2つのパートが手を打ち鳴らしていきます。最初は第1パートも第2パートも譜例のように「タタタッ タタッ タッタタッ」という同じパターンを打っています。しばらくすると、第2パートは一つ音をずらします。そしてもう一つ、さらにもう一つ……と第2パートは徐々にずらしていきます。言葉にするとわかりにくいかもしれませんが、指揮者の原田さんの説明を聴いてもらうと、とても楽しい音楽であることがわかると思います。ズレたり合ったりしながら、微妙にパターンの姿が変わっていく様子に、耳をすませてみましょう。

バーンスタイン:
『ウエスト・サイド・ストーリー』より「マンボ」

 『ウエスト・サイド・ストーリー』は、指揮者・作曲家・ピアニストとして、20世紀のアメリカ音楽界に偉大な功績を残したレナード・バーンスタイン(1918~90)が1957年に作った有名なミュージカルです。人種の違いによって若者たちが憎しみあい、恋人たちが結ばれず悲しい終わりを迎えるという、アメリカの社会がかかえる問題をあつかったお話です。音楽はとてもパワフルで個性的。美しい歌もたくさん登場する作品です。「マンボ」は、若者たちがダンスフロアで激しく踊る場面の音楽で、とてもリズミカルでノリのよいナンバーです。

コラム

アメリカが生んだ音楽〜ジャズ

 ジャズは北アメリカ大陸のアメリカ合衆国で、19世紀末から20世紀の初めに生まれました。アメリカ大陸には、今から400年ほども前に、ヨーロッパから船で渡ってきた白人たちと、その白人たちによって奴隷として連れてこられてしまったアフリカの黒人たちが暮らし始めました。(同じ人間なのに、どちらかがどちらかを「奴隷」にするなんてひどい話です。やがて奴隷制度はなくなりましたが、今でも黒人の人たちが差別され、痛ましい事件も起きています。そんな差別はぜったいにいけませんね。)ジャズはそんなアメリカ合衆国で、ヨーロッパとアフリカの音楽とが出会い、混ざり合って生まれた、独自の音楽なのです。もともとはルイジアナ州のニューオーリンズという港町から発展していきました。
 ジャズの特徴はいくつもありますが、ここでは3つだけ紹介します。

■ブルー・ノートが使われる
 「ドレミファソラシド」はヨーロッパのクラシック音楽で使われる音階ですが、黒人の人たちはこの中の「ミ」と「ソ」と「シ」を少し下げた音を好んで使い、それがジャズへと発展していきました。英語では心が暗く沈む状態を「ブルー」といいますが、これらの音は少し暗い響きがするので「ブルー・ノート」と呼ばれるようになりました。

■スウィングする
 これはリズムの特徴です。譜例1のように音を「ターターターター」と均等にならべるのではなく、譜例2のように「タータタータ」と長短をつけることで、弾むような感じが出ます。

■即興演奏がある
 即興演奏とは、楽譜に書かれていないことを、演奏者がその場で自由に演奏することです。クラシック音楽にも即興はありますが、ジャズは演奏のほとんどが即興ということも珍しくありません。大枠のハーモニーやメロディーは決まっていますが、演奏する人がどんどんメロディーの形を自由に変えたり、楽器同士が自由に掛け合ったりして、その場でしか生まれない音楽が披露されるのです。

(文 飯田有抄)