プログラムノート

第74回 2020年7月5日(日)『ヨーロッパ II』

ボッケリーニ(ベリオ 編曲):『マドリードの夜警隊の行進』G.324
ビゼー(山中惇史 編曲):『カルメン・ファンタジー』
ビゼー:『アルルの女』第2組曲 より 第4曲「ファランドール」
ロッシーニ:オペラ『セビリャの理髪師』序曲
レスピーギ:交響詩『ローマの松』より
第3部「ジャニコロの松」、 第4部「アッピア街道の松」

「こども定期演奏会 2020」テーマ曲

山下華音:『ハムスターパーティー』
『ハムスターパーティー』
山下華音さん(小学3年生)からのコメント
大きなホールで100ぴきのハムスターたちがクリスマスパーティーをしています。ステージでは、げきやダンスにバレエなどをはっぴょうしています。
 ずっとパーティーが続いたらいいのにな。
 わたしはきょくを作ることが大すきです。このきょくは1年生の冬に作りました。そしてテーマきょくように少しかえておうぼしました。
 えらばれたときはびっくりしたけど、とてもうれしかったです。
 7月5日の演奏会で、はじめてオーケストラで演奏されたこの曲をききました。和田さんの考えてくれたへんきょくは、たくさんの楽器が豪華な音をだしていて楽しかったです。

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)


ボッケリーニ(ベリオ 編曲):
『マドリードの夜警隊の行進』G. 324

 夜の町をパトロールする警官たちが、遠くから行進してきて去ってゆきました。その姿は堂々としていて明るく朗らかです。ルイージ・ボッケリーニ(1743~1805)はその様子を『マドリードの夜警隊の行進』という音楽にしました。もともとは弦楽五重奏(ヴァイオリン2人、ヴィオラ1人、チェロ2人)や、ギターも加えたギター五重奏の形で演奏する作品です。今日聴いていただくのは、およそ200年後の1975年に、ボッケリーニと同じくイタリアで生まれた作曲家ルチアーノ・ベリオ(1925~2003)が、大きな編成のオーケストラ用にアレンジしたものです。ベリオは、ボッケリーニが残したこの音楽の4つのバージョンをつなげたり重ね合わせたりして、変奏曲のスタイルにまとめており、とても力強く迫力ある行進曲に仕上げています。

ビゼー(山中惇史 編曲):
『カルメン・ファンタジー』

 サクソフォーン(サックスとも呼ばれます)は、1840年代にベルギーの楽器職人アドルフ・サックスという人が生み出した楽器です。オーケストラで登場するさまざまな楽器の中では、わりと新しい楽器ですが、ラヴェルやイベールといったフランスの作曲家たちの間では早くから注目されていました。ジョルジュ・ビゼー(1838~75)もまたサクソフォーンを作品の中に取り入れた一人で、『アルルの女』という組曲で使用しています。
 これから演奏される『カルメン・ファンタジー』は、ビゼーが残した最も有名なオペラ(歌の劇のこと)『カルメン』に登場するメロディーをたくさん使った曲です。『カルメン』のメロディーを用いた音楽では、サラサーテという名ヴァイオリニストが作った『カルメン幻想曲』がよく知られていますが、今日は日本のピアニスト・作曲家の山中惇史さんがサクソフォーンのために編曲したものを聴いていただきます。サクソフォーンとオーケストラが奏でるドラマティックな音楽の流れを楽しみましょう。

ビゼー:
『アルルの女』第2組曲 より 第4曲「ファランドール」

 『アルルの女』は、ビゼーが1872年に作ったお芝居のための音楽です。青年の悲しい恋の物語を描いたこの劇は、あまり人気にならなかったのですが、ビゼーは自分の書いた音楽をとても気に入っていました。そこで、劇だけでなくコンサートでも演奏できるようにと、4曲を選んで組曲にまとめました。それが『アルルの女』第1組曲です。さきほど述べたように、その中でビゼーはアルト・サクソフォーンを使っています。
 第2組曲は、ビゼーが亡くなってから友人のエルネスト・ギロー(1837~92)が別の4曲を選んでまとめたものです。「ファランドール」はその中の4曲目。南フランスのプロヴァンスという地方に古くから伝わる民謡や踊りの音楽がもとになっています。堂々としたメロディーに続いて、スピーディーな舞曲が展開していきます。

ロッシーニ:
オペラ『セビリャの理髪師』序曲

 ふたたびイタリア生まれの作曲家に戻りましょう。ジョアキーノ・ロッシーニ(1792~1868)は、人気オペラを手がけた天才的な作曲家。彼の作るオペラは、音楽の都ウィーンをはじめとしてヨーロッパ中で大ヒットしました。作曲するのがとても速く、短期間に多くの作品を手がけた彼は、オペラ『セビリャの理髪師』を2週間もかけずに仕上げたそうです。そんなロッシーニは、作曲家を引退するのもとても早く、まだ37歳という若さでパタリとオペラを書かなくなりました。その後は大好きなお料理を食べまくる美食家に転身! 牛ヒレ肉の料理に「ロッシーニ風」というものがありますが、それは彼が生み出した料理なのです。
 話がそれてしまいましたが、『セビリャの理髪師』はロッシーニのオペラの中でもとくによく知られています。ロジーナという美しい娘と、彼女を恋する伯爵、遺産目当ての医者バルトロといった人物たちによるドタバタコメディです。「序曲」とは、歌手が登場する前に、オーケストラだけで演奏される音楽のこと。華やかな出だしに続いて、歌うような美しいメロディーが現れたあと、シリアスでスピーディーに進む音楽となり、また軽やかなメロディーが現れて……と、聴いているだけでワクワクしてきます。実は別のオペラに書かれた序曲を使いまわしただけだったそうなのですが、今では『セビリャの理髪師』の序曲としてすっかりおなじみです。

レスピーギ:
交響詩『ローマの松』より第3部「ジャニコロの松」、第4部「アッピア街道の松」

 おしまいはもう一人イタリアを代表する作曲家の作品を聴いてもらいます。オットリーノ・レスピーギ(1879~1936)の『ローマの松』は、歴史のある都ローマの情景を描いた交響詩の一つで、『ローマの噴水』『ローマの祭り』とならび“ローマ三部作”と呼ばれています。交響詩というのは、物語や登場人物、風景などを表現するオーケストラ曲のことです。イタリアといえばオペラがとても盛んな国ですが、レスピーギは歌のない器楽曲や、オーケストラ音楽のレパートリーを増やしました。
 1923~24年に作られた『ローマの松』は、ローマの街に長い年月の間立ち続ける4ヵ所の松をテーマに作曲されています。「ボルゲーゼ荘の松」「カタコンブ付近の松」「ジャニコロの松」「アッピア街道の松」という4部からなり、切れ目なく続けて演奏されますが、今日は後半を聴いてもらいます。「ジャニコロの松」はローマ西南部の丘に立ち、満月の夜に浮かび上がる情景をクラリネットが夜想曲のような美しいメロディーで歌い、後半はナイチンゲールの鳴き声が響き渡ります。やがて遠くから行進曲が聞こえてくるところからが「アッピア街道の松」です。古代ローマの兵隊たちが行進する様子を、高らかに響く金管楽器と打楽器とが盛大に盛り上げ、クライマックスへと向かいます。

コラム

季節を知らせる世界の景色

~夏の訪れを知らせる「夏至祭」

 夏が近づいてきましたね。「夏だなぁ!」と感じるのは、気温が高くなって暑さを感じる以外にも、もう一つありませんか? そう、外の明るい時間が長くなることです。7月ともなると、ここ東京では朝4時半ごろにはお日様がのぼります。太陽が沈むのは、夜の7時ごろ。まだ明るいな~と外で元気に遊んでいたら、もう夜ご飯の時間になっていた!ということもありますね。
 一年の中でもっとも昼の時間が長くなる日のことを、「夏至」といいます。地球上のどこにあるかによって、国ごとに夏至の日にちは少し違いますが、日本では毎年6月21日か22日ごろが夏至にあたります。昼間の時間は15時間近くあります。真冬よりも、明るい時間が5時間くらい長いのです。地球のもっと北にある国、ヨーロッパで言うとノルウェーやスウェーデンやフィンランドでは、明るい時間がもっともっと長くなり、しまいには夜が来ない「白夜」となります。北極圏の地域では、なんと白夜が70日以上も続くそうです。
 でも、北国の夏はあっという間に終わってしまいます。短い夏の到来を人々はお祭りをして祝います。「夏至祭」「ミッドサマー」と呼ばれるそのお祭りは、日本のお正月くらい賑やかです。スウェーデンでは、メイポールと呼ばれる白樺の葉を使った大きなポールを立て、その周りをみんなで輪になって踊ります。美しい花冠を作り、それをみんなで頭に乗せながら食事をしたりおしゃべりをしたり、家族や友人みんなで明るい夏の到来をお祝いするのです。
 明るい時間が長く、夜も寒くない。そんな夏には、野外でコンサートが開かれる音楽祭なども世界の各地で行われます。今年は新型コロナウイルスにみんなが感染しないように、音楽祭をできない国も多いかもしれません。のびのび楽しめる日が、早く戻って来るといいですね。

(文 飯田有抄)