プログラムノート

第69回 2019年4月14日(日)『ハーモニー』

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集『四季』作品8 より 第1番 ホ長調 RV 269「春」第1楽章
モーツァルト:交響曲第1番 変ホ長調 K. 16 より 第1楽章
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68 第1楽章 より
マスネ:『タイスの瞑想曲』
ドビュッシー(ビュセール 編曲):交響組曲『春』より 第2楽章
リムスキー=コルサコフ:交響組曲『シェエラザード』作品35 より 第1楽章「海とシンドバッドの船」

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

 みなさん、こんにちは! 今年のこども定期演奏会は「音楽レシピ〜音楽は何でできている?」をテーマに、オーケストラを通じた素敵な音楽をお届けしていきます。第1回目にご紹介するレシピは「ハーモニー」。ハーモニーとは、違う音と音とを重ね合わせて作られる美しい響きのことです。一人で歌うのも楽しいけれど、だれかが一緒に“ハモって”くれると、ぐっと音の豊かさが広がりますよね。今日は素敵なハーモニーに彩られた作品がたくさん登場します。

「こども定期演奏会2019」テーマ曲

村瀬萬紀:
『空中散歩~Les Petite Histoires』
村瀬萬紀さん(小学校4年生)からのコメント
『空中散歩』
 この曲の主人公は庭に置き去りにされた自転車です。乗る人がいなくても自転車はくさったりせず、一人ごきげんで出かけます。自由に空も飛び、たっぷり散歩を楽しむと、今度は家路を急ぎます。少しゆっくりしすぎたからです。
『Les Petite Histoires』
 どこかの街角でおじいさんがベンチに座り、ヴァイオリン弾きの奏でる曲を聴きながら、目を閉じて昔のことを懐かしく思い出す。そんな場面を想像して、この曲を作りました。
 この二曲が一つに合体するなんて、一体どんな風になるのかと、とても楽しみです。

ヴィヴァルディ:
ヴァイオリン協奏曲集『四季』作品8 より
第1番 ホ長調 RV 269「春」第1楽章

 春は新しい学校やクラスが始まり、新しいお友達に出会える季節。とてもワクワクしますね。自然の世界でもお花や鳥たちなどが生き生きと元気な姿を見せる季節です。イタリアの作曲家アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)は、そんな美しい春の様子を、弦楽器の豊かな合奏で表現しています。この楽章には「春がきた 小鳥が幸せそうに歌う 小川が西風にささやく やがて空は黒い雲につつまれ 雷がとどろく 嵐が過ぎ去ると ふたたび小鳥が喜び歌う」という内容の詩が添えられています。そんな情景を想像しながら聴いてみましょう。とくに、独奏ヴァイオリンが高らかに奏でる鳥の声は、とても美しく華やかです。

モーツァルト:交響曲第1番 変ホ長調 K. 16 より 第1楽章

 みなさんは「神童」という言葉を知っていますか? 並外れた才能をもった小さな子どものことです。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~91)は、まさに神童としてその名をとどろかせました。3歳の頃にチェンバロという鍵盤楽器を弾きこなし、5歳から作曲を始めたというから驚きです。本日演奏される交響曲第1番は、モーツァルトがなんとまだ8歳の頃に書き上げたという、記念すべき最初の交響曲です。同じ音の繰り返しがあるなど、メロディーはわりとシンプルですが、生き生きとした鮮やかなハーモニーが聞こえてきます。喜びいっぱいに五線譜に音楽を書き付けている神童モーツァルトの姿が目に浮かぶようですね。

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68 第1楽章 より

 同じ「最初の交響曲」でも、8歳で作ったモーツァルトとは大違いで、43歳になってようやく書けた作曲家もいます。モーツァルトよりも100年ほど後の時代に活躍したヨハネス・ブラームス(1833~97)です。彼は交響曲第1番を完成させるまでに20年以上もの年月をかけました。この頃までにブラームスはたくさんのピアノ曲や、合唱とオーケストラのための曲なども作り、すでに作曲家として成功していたのですが、なぜそんなに時間がかかったのでしょうか。実は、モーツァルトより少しあとに生まれ、ブラームスにとっては大先輩であるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)が、9つの素晴らしい交響曲を世に残していたので、ブラームスは自分の交響曲になかなか満足できなかったのです。しかし、時間をかけただけあって、この交響曲は出だしから印象深いハーモニーが鳴り響きます。ティンパニが打ち鳴らす力強さも、心に響くことでしょう。「あきらめなければ、こんなに立派な作品が完成するのだ」と、ブラームスが真剣に語りかけてくるかのようです。

マスネ:『タイスの瞑想曲』

 オーケストラの柔らかな響きに乗って、ヴァイオリンが甘く優しいメロディーを奏でる『タイスの瞑想曲』は、フランスの作曲家ジュール・マスネ(1842~1912)が作った『タイス』というオペラ(歌と音楽による劇のことです)の中の一曲です。自由に楽しいことばかりを求める女性タイスが、修道士アタナエルの教えに導かれて、神を愛し信じる心に目覚めていく様子を描いています。その清らかなメロディーが、広く愛されています。

ドビュッシー(ビュセール 編曲):交響組曲『春』より 第2楽章

 フランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862~1918)の交響組曲『春』は、一曲目のヴィヴァルディの「春」とは雰囲気が違います。ドビュッシーは色や光や雰囲気といった、手に取ることのできないものの美しさを音楽で表現することが得意な作曲家でした。この曲にも、そんな彼のユニークな表現が際立っています。『春』は、ドビュッシーが20代のころに書かれ、もともとはオーケストラと女声合唱のために作られましたが、その楽譜は火事で失われてしまいました。残っていたピアノの楽譜をもとに、のちにアンリ・ビュセールという人が、ドビュッシーから指示をもらいながら現在のオーケストラ作品の形にまとめました。二つの楽章から成り立っていますが、今日はきらびやかな第2楽章を演奏します。

リムスキー=コルサコフ:
交響組曲『シェエラザード』作品35 より 第1楽章「海とシンドバッドの船」

 おしまいに演奏されるのは、ロシアの作曲家ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844~1908)の作品です。「シェエラザード」とは、ある女性の名前です。ペルシャに恐ろしい王様がいました。彼は次々と女性と結婚しますが、相手を信じられず、朝になると殺してしまうという人でした。ある時、シェエラザードという女性がお妃となりました。彼女は毎晩おもしろい物語を王様に聞かせ、「続きはまた明日」としたので、王様はそれ以上お妃を殺さなくなりました。このお話は『千夜一夜物語』として知られています。リムスキー=
コルサコフのこの作品は、シェエラザードが語って聞かせた物語を題材にしています。第1楽章の「海とシンドバッドの船」では、冒頭に聞こえる荒々しいメロディーは王様を、美しいヴァイオリンの独奏はシェエラザードを表しています。シンドバッドが冒険を繰り広げる海の大きなうねりが、オーケストラの壮大なハーモニーとなって響き渡ります。