プログラムノート

第65回 2018年4月21日(土)「笑って(^o^)」

石﨑ひかり:『小さなあさのコンサート』
ロッシーニ:オペラ『絹のはしご』序曲
伝ロッシーニ:ファゴット協奏曲 より 第1楽章
シューベルト:交響曲第6番 ハ長調 D. 589 より 第4楽章

プログラムノート 飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

 みなさんは音楽を聴いて、ホッと安心したり、ワクワクと楽しい気持ちになったり、心が慰められたことがありますか? 今年のこども定期演奏会のテーマは「音楽と感情」です。作曲家たちが伝えようとした感情、聴く人たちに呼び起こされる感情、そうしたさまざまな心の動き、喜怒哀楽を楽しんでもらえる作品がたくさん登場します。今日のコンサートは「笑って (^o^)」。思わず笑顔になってしまう愉快な音楽に耳を澄ませましょう。

「こども定期演奏会2018」テーマ曲
石﨑ひかり:『小さなあさのコンサート』

石﨑ひかりさん(小学校2年生)からのコメント
 はじめてつくったきょくがえらばれて、びっくりしています。
 『小さなあさのコンサート』は、せかいじゅうのひとが、音がくでつぎつぎに目をさまして、コンサートにあつまってくるイメージのきょくです。じぶんのつくったメロディーがオーケストラにアレンジされたら、どんながっきでえんそうされるのか楽しみです。たくさんの人にきいてもらうなんて、ドキドキしています。

ロッシーニ:オペラ『絹のはしご』序曲

 ジョアキーノ・ロッシーニ(1792~1868)はイタリアでたくさんのオペラを手がけた作曲家です。彼の書いたオペラは涙あり、笑いあり。人々の生き生きとした感情が豊かに表現されており、ヨーロッパ中で人気となりました。なかでもロッシーニが得意としたのは、観ているお客さんが大笑いしてしまう喜歌劇を作ること。同じ時代にウィーンで活躍していたベートーヴェンはロッシーニに「真面目なのは作らなくていいから、おもしろい喜歌劇だけを書いたほうがいいよ」とアドヴァイスをしたというほど、楽しいオペラを作る才能に長けていました。
 オペラ『絹のはしご』は、1812年に初演されたオペラです。若い恋人たちがこっそり会うために、絹でできた縄のはしごを使おうとするのですが、それを許そうとしない大人が現れたり、恋人たちの間で誤解が生じるというドタバタ喜劇。今ではこのオペラそのものが上演されることは少ないですが、軽やかでオシャレな序曲は広く愛されています。
 ヴァイオリンの駆け下りてくるような音型、オーボエとフルートによる優雅なメロディーのゆったりとした序奏に続いて、軽快な主部が始まります。元気に動き回るメロディーと、伸びやかで歌うようなメロディーとが次々に現れます。


伝ロッシーニ:ファゴット協奏曲 より 第1楽章

 続いて演奏されるファゴット協奏曲も、ロッシーニが作曲したと言われています。「言われている」というのは、この曲が本当にロッシーニによって作られたという証拠が認められていないからです。
 ロッシーニは先ほど紹介したとおり、オペラ作曲家として大変な人気を集め、イタリアからフランスのパリへと活躍の場を広げます。ところが、売れっ子だったにも関わらず、彼は37歳でぱったりとオペラを書くのをやめてしまいました。いろいろな理由が考えられますが、およそ20年にわたり、39作ものオペラを作っていたので、もう充分だと思ったのかもしれません。その後ロッシーニは大好きな料理の道へと突き進み、料理発明家へと転身しました。
 1845年頃、ロッシーニの母校であるイタリアのボローニャ音楽院に、ナザリーノ・ガッティという優れたファゴット吹きの学生がおりました。当時ロッシーニはイタリアに戻っていて、音楽院で名誉顧問になっていました。ガッティは自分の試験の課題曲として、ロッシーニに協奏曲を作ってもらったと言いました。その作品が、今日演奏されるファゴット協奏曲なのです。
 実際には、当時のロッシーニはいくつかの宗教曲をのぞいて作曲をほとんどしなくなっており、体調も崩していたため、ファゴット協奏曲を書きあげることはできなかったと考えられています。音楽院の名誉顧問として、作品の創作には何かしらの協力をした可能性はありますが、ロッシーニに詳しい音楽学者たちも、この曲がロッシーニ作だとは認めていません。
 いずれにせよ、ファゴットとオーケストラのための協奏曲は数が多くないため、この作品はファゴット奏者たちにとって大切なレパートリーとなりつつあります。本日は3つある楽章の中から、明るくユーモラスな第1楽章を聴いていただきましょう。

シューベルト:交響曲第6番 ハ長調 D. 589 より 第4楽章

 フランツ・シューベルト(1797〜1828)は、ロッシーニより5歳年下のウィーンの作曲家です。音楽の都ウィーンでも、当時はロッシーニの軽やかで楽しいオペラが大流行していました。歌曲をたくさん作っていたシューベルトは、オペラへの大きな憧れを抱いており、ロッシーニの作品にも心惹かれるものを感じ、いつか自分もロッシーニのような、楽しいオペラを書きたい!と思っていました。オペラでの成功を夢見たシューベルトは、『アルフォンソとエストレッラ』『キプロスの女王ロザムンデ』など、いくつかのオペラを残しましたが、当時も現代も、残念ながらほとんど上演されていません。それよりも、彼の600曲以上におよぶ歌曲や、ピアノ曲、交響曲がとても有名になりました。(その多くは、彼が31歳の若さでこの世を去ってから広く愛されることになったのですが……。)
 シューベルトの交響曲は第8番まで番号がつけられたものがあり、そのほかにも完成しなかった断片や下書きが残されているものもあります。本日演奏される第6番は、1818年に完成した作品です。シューベルトがもっとも尊敬した作曲家であり、交響曲作りの大先輩でもあるベートーヴェンからの影響、そして大好きだったロッシーニの喜歌劇からの影響も表れた、明るく生き生きとした作品です。全部で4つの楽章からなる作品ですが、本日はおしまいの第4楽章が演奏されます。すばしこく動き回るメロディーやスキップするようなリズムに満ちた、華やかなフィナーレです。