プログラムノート

第61回 2017年9月9日(土)「オードブルは弦楽器」

鈴木美音:『はりねずみのベッド』じょ曲
ストラヴィンスキー:弦楽のための協奏曲 ニ調 より 第1楽章
グリエール:ハープ協奏曲 より 第3楽章
マイヤーズ:映画『ディア・ハンター』より「カヴァティーナ」
ジョビン:映画『黒いオルフェ』より「フェリシダーヂ」
リムスキー=コルサコフ:『スペイン奇想曲』より 第4楽章、第5楽章

プログラムノート 飯田有抄(音楽ライター)

 今年のこども定期演奏会のテーマは「楽器ア・ラ・カルト」です。「ア・ラ・カルト」とはフランス語で、メニューの中から好きなものを注文するお食事のこと。コースやセットや定食ではなく、メニューから一品を選び抜いて味わうように、いくつかの楽器の音色をじっくりと楽しみましょう。今日のコンサート「オードブルは弦楽器」では、お食事の最初に味わう前菜のように、フレッシュな弦楽器の音色をお届けします。オーケストラの手前にならんだ弦楽器群(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)が活躍し、ハープとギターが独奏楽器として登場します。

「こども定期演奏会2017」テーマ曲
鈴木美音:『はりねずみのベッド』じょ曲

鈴木美音さん(小学校2年生)からのコメント
 えんそう会がはじまる時のきもちを考えていたら、すごくわくわくして楽しいメロディーがうかんできました。
 曲といっしょに、ハリネズミきょうだいが出てくるものがたりも考えました。
 かわいくてウキウキするかんじがとても気に入っているので、たくさんのがっきでえんそうしてもらえるのを楽しみにしています。
 わたしがもっと大きくなって音楽のべんきょうをいっぱいしたら、ものがたりのさいごまで、オーケストラのがくふを書いてみたいです!!

ストラヴィンスキー:弦楽のための協奏曲 ニ調 より 第1楽章

 ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971)によるこの作品は、タイトルにあるとおり、管楽器が登場せず弦楽器だけで演奏します。また、「協奏曲」というとピアノやヴァイオリンなどを独奏する人とオーケストラとが合奏する曲を思い浮かべるでしょうが、この作品には独奏者も登場しません。独奏者とオーケストラで演奏する協奏曲はモーツァルトやベートーヴェンの活躍した18世紀に広まったスタイルですが、ストラヴィンスキーはもっと昔のスタイル、つまりバッハが活躍した17世紀の「合奏協奏曲」をイメージしながらこの曲を作ったのです。合奏協奏曲では、楽器同士のグループが大きな音や小さな音を奏で合いながら、生き生きと音楽を繰り広げます。
 ストラヴィンスキーはこの曲を1946年に書きました。その年は、スイスにあったバーゼル室内管弦楽団というオーケストラが20年目を迎えた年でした。オーケストラを作ったパウル・ザッハーというお金持ちの指揮者が、ぜひ記念になる曲を作ってほしいとストラヴィンスキーに頼んだのです。曲は全部で3つの楽章からなりますが、今日はその中から第1楽章を聴きます。同じ音が鋭いリズムで繰り返されたり、メロディーが滑らかに揺れ動いたり、急に拍子がかわったりします。弦楽器が聴かせるいろいろな表情に耳を澄ませましょう。

グリエール:ハープ協奏曲 より 第3楽章

 続いては、ハープの音色とオーケストラとの素敵なアンサンブルをたっぷりと味わいましょう。このハープ協奏曲を作ったのはレインゴリド・グリエール(1875~1956)という作曲家です。さきほど登場したストラヴィンスキーと同じくロシア(ソビエト連邦)の人ですが、ストラヴィンスキーより7歳年上。音楽院の先生としても活躍した人です。
 作曲家はどんな楽器のことも完璧に知っているわけではありません。でも、どんな風に演奏するのか、どんな表現が得意で、逆にどんな奏法はムリなのか、楽器の特性を知らないと曲を書くことはできません。グリエールが1938年にこのハープ協奏曲を書いたとき、彼自身はハープを弾くことはできなかったので、有名なクセーニャ・アレクサンドロヴナ・エルデリーというハープ奏者に、楽器のことをいろいろ教わりました。エルデリーが与えてくれたさまざまなアドヴァイスを生かし、グリエールはオーケストラと見事に響き合うハープ協奏曲を残すことができたのでした。

マイヤーズ:映画『ディア・ハンター』より「カヴァティーナ」

 次に演奏されるのは、ギターの名曲として知られる作品です。ベトナム戦争を扱ったアメリカの映画『ディア・ハンター』(1978年公開)のテーマ曲「カヴァティーナ」です。作曲したのはイギリス人のスタンリー・マイヤーズ(1930~93)。彼は100本以上もの映画やテレビ番組のために音楽を作りましたが、この「カヴァティーナ」はマイヤーズにとって代表的な作品です。カヴァティーナとは、もともとは短くてシンプルな歌を意味します。この曲は人の声で歌われるものではありませんが、メロディーは素朴で温かみがあり歌心に溢れています。映画のサウンド・トラックで演奏したのは、クラシック・ギターの世界的な名奏者ジョン・ウィリアムスでした。その美しく優しい音色に多くの人が感動し、ギターを演奏する人たちにとっては大事なレパートリーとなりました。

ジョビン:映画『黒いオルフェ』より「フェリシダーヂ」

 ここでギターの独奏に耳を傾けてみましょう。ブラジルを舞台とした映画『黒いオルフェ』(1959年に公開)で使われた名曲です。作曲者のアントニオ・カルロス・ジョビン(1927~94)は、「ボサ・ノヴァ」という新しい音楽ジャンルを作り上げたことで知られています。ボサ・ノヴァは、ブラジルの踊り「サンバ」が、ゆったりとおしゃれになったような音楽です。この「フェリシダーヂ」(「幸せ」という意味)は、少し悲しげな雰囲気のメロディーに独特のリズムが付いています。もともとは「悲しみには終わりはない、幸せには終わりがある」という歌詞の付いた歌です。

リムスキー=コルサコフ:『スペイン奇想曲』より 第4楽章、第5楽章

 おしまいにもう一人ロシアの作曲家の作品をご紹介します。ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844~1908)の『スペイン奇想曲』です。ロシア人なのにスペイン? そうなのです。リムスキー=コルサコフは、ロシアの民謡や物語などにもとづいて「ロシアらしい」作品をたくさん書いた人ですが、その一方で「異国趣味」と呼ばれる遠い外国へのイマジネーションを膨らませた作品も残しました。この作品はスペイン民謡のメロディーを使いながら、スペインに思いを馳せて1887年に書いた作品です。曲は切れ目なく続く5つの楽章から成り立ちますが、今日は第4楽章「シェーナとジプシーの歌」と第5楽章「アストゥリアのファンダンゴ」を演奏します。第4楽章は小太鼓と金管楽器の派手なファンファーレに続いて、ヴァイオリン、フルート、クラリネット、オーボエ、ハープ、チェロの独奏が次々と登場します。第5楽章はスペインのアストゥリア地方に伝わる舞曲。リズミカルな打楽器の響きに乗って、明るく華やかに盛り上がります。