プログラムノート

第54回「ちょっとロマンティック」ロマン派前期

田中伶奈:「こども定期演奏会2015」
テーマ曲(編曲:日下部進治) みらいの空へ

ウェーバー:オペラ 『魔弾の射手』序曲
リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調から 第2、3、4楽章
メンデルスゾーン:序曲 「フィンガルの洞窟」
シューベルト:交響曲第7番 ロ短調 「未完成」から 第1楽章章

プログラムノート 飯田有抄(音楽ライター)

今年の「こども定期演奏会」のテーマは「オーケストラ・タイムマシーン」です。 オーケストラが皆さんのタイムマシーンとなって、いろいろな時代に連れて行ってくれます。今回わたしたちが訪れるのは「ちょっとロマンティック」な時代です。今から200年ほど前、ヨーロッパの作曲家たちは、文学や絵画や自然風景などから刺激され、気持ちが高ぶるような激しい音楽や、とても甘くやわらかな雰囲気の音楽を作るようになりました。そんなロマンティックな世界を、今日はたっぷりとお楽しみください。

ウェーバー:オペラ 『魔弾の射手』序曲

19世紀はじめのイタリア、フランス、ドイツといったヨーロッパの国々では、オペラがとても盛んに上演されて人気を集めていました。とりわけ、自分たちの国の言葉で歌われ、親しみのある民話や民謡や文化を扱ったオペラが、人々の間で求められるようになりました。ドイツでは、そんな声に応えた作曲家にカール・マリア・フォン・ウェーバー(1786~1826)がいます。ウェーバーの代表作は『魔弾の射手』。34歳のときに3年がかりで書き上げたオペラです。物語の舞台はボヘミアの森。猟師のマックスは、明日の射撃大会で優勝しなければ愛する婚約者アガーテとの結婚が許されません。ところが彼はどうしても調子が出ません。そんな彼に猟師仲間のカスパールが、悪魔から手に入れる「魔弾」を使えば百発百中だとそそのかします。マックスは、本当は使ってはいけない魔弾で大会に出てしまうのですが……。「序曲」はオペラの幕が開く前に演奏される曲です。ホルンによる賛美歌で始まりますが、やがて暗い森の中へと連れて行かれるような不穏なムードの音楽となります。そしてオペラの中の有名なアリアのメロディーが現れ、オーケストラ全体が迫力のあるクライマックスを奏でます。

リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調から 第2、3、4楽章

ハンガリーの小さな村に生まれたフランツ・リスト(1811~86)は、19世紀を代表するスーパースターとして成功した音楽家です。9歳の頃からすでにその才能が注目され、12歳でパリやロンドンでのデビューを果たします。当時は折しもピアノという楽器が大流行した時代です。サラサラヘアを振り乱して華麗にピアノを弾く彼の姿は、現代でいうアイドルのようにもてはやされ、女性たちが気を失うほどの魅力に溢れていたといいます。リストはまた、ほかの人には弾けないような難しい曲を自分で作り、見事な指さばきで聴く人を驚かせました。そんな名人芸のことを「ヴィルトゥオーソ」といいますが、リストはまさに、第一級のヴィルトゥオーソだったのです。

さて、今日演奏されるピアノ協奏曲第1番は、リストが19歳の頃からアイデアを温めていた曲です。完成したのは38歳のとき。この間リストは、当時ヴァイオリンのヴィルトゥオーソとして名を馳せていたパガニーニという人の音楽から刺激を受けたり、オーケストラに対する知識も深めていました。当時のピアノ協奏曲と言えば、楽章が全部で3つか4つに分かれているのが通常で、この作品も全部で4楽章までありますが、リストはそれらを一つの大きな楽章のように考えていたようです。今日はその中から弦楽器のゆったりとした響きで始まり、ピアノ独奏がロマンティックな世界を広げる第2楽章と、トライアングルが大活躍するリズミカルな第3楽章、行進曲風の華やかな第4楽章までを、続けて聴いていただきます。

メンデルスゾーン:序曲 「フィンガルの洞窟」

クラシック音楽の作曲家は、生きている間にはその才能が認められなかったり、お金がなくて生活が苦しかったり、身体が弱く病気がちだったりと、苦労した人がすくなくありません。しかしドイツの作曲家メンデルスゾーン(1809~47)は、お金持ちの両親のもとに生まれ、ベルリンでの幸せな家庭生活を送りました。彼が12歳の頃、本日の1曲目に演奏されたウェーバーの『魔弾の射手』を両親と観に行って感動し、14歳でオペラを書いたそうです。美少年だったメンデルスゾーンを、有名な文豪ゲーテも誉め称えたということです。生涯を38年という短い年月で閉じてしまったことは残念ですが、彼はその中で多くの傑作を残しました。  

これから聴いていただく序曲「フィンガルの洞窟」は、メンデルスゾーンが二十歳のころ(1829年)に、友人の暮らすスコットランドに旅したことがきっかけで生まれた作品です。旅先の嵐の夜、メンデルスゾーンはヘブリディーズ諸島というところまで足を伸ばしました。その島には「フィンガルの洞窟」と呼ばれる、柱のような岩が並ぶ不思議な洞窟がありました。真っ暗な洞窟の中で、メンデルスゾーンは音がよく響きわたることに感激しました。そして、「巨大なオルガンの内部のようだ」というその時の印象にもとづいて、オーケストラ曲を書こうと思い立ちました。約1年をかけて曲は完成。島や洞窟の風景を想像させる鮮やかな音楽は、すぐに大人気となりました。なお、「序曲」とはありますが、この曲の後ろになにかオペラやバレエが続くわけではありません。メンデルスゾーンの作った「序曲」とは、のちに「交響詩」と呼ばれるような、情景を描くオーケストラ曲の先駆けとなりました。

シューベルト:交響曲第7番 ロ短調 「未完成」から 第1楽章

最後に演奏されるのは、音楽の都ウィーンで活躍したフランツ・シューベルト(1797~1828)の作品です。短い首に丸い鼻、丸眼鏡(眠るときも外さなかったそうです)のシューベルトは、決してハンサムとはいえない人で、女性からモテるタイプではありませんでした。しかし、その誠実で温かな心をもった彼は、多くの友達から愛されていました。なかなか思うようにお金を稼げなかったシューベルトですが、詩人や歌手の友人たちが、「シューベルティアーデ」と呼ばれるコンサートを開いてくれて、彼を経済的にも支えていたそうです。  そんなシューベルトは、たった31年という、今日登場した作曲家の中でもっとも短い生涯を送った人。ところが残した作品はとても多く、たくさんの歌曲やピアノ作品、室内楽があります。交響曲は8曲残しています。第7番「未完成」は、1822年、シューベルトが25歳の時に作曲されました。  なぜこの曲が「未完成」と呼ばれているかと言うと、シューベルトは2つの楽章しか書き残さなかったからです。当時、交響曲といえば4つの楽章で作られることが普通でした。しかしシューベルトは、この作品を2楽章まで書いたところでやめてしまったのです。ひょっとすると彼はこの2つの楽章だけで、この作品の世界はもう十分に表現できたと判断したのかもしれません。今日は第1楽章だけが演奏されます。重みがあってロマンティックな迫力に満ちています。