第99回 2026年9月6日(日)『もっと美しく、もっと激しく』
東京交響楽団&サントリーホール
「こども定期演奏会」
音楽の実験
第99回 「もっと美しく、もっと激しく」
2026年9月6日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール
「こども定期演奏会2026」テーマ曲(清水大輔 編曲)
辻󠄀 理那子:『The Flying Cat』
Rinako Tsuji (arr. Daisuke Shimizu): Theme Music of “Subscription Concert for Children 2026”
プロコフィエフ:バレエ組曲『ロメオとジュリエット』第2番 作品64ter より
第1曲「モンタギュー家とキャピュレット家」*
Serge Prokofiev: No. 1 “The Montagues and the Capulets” from Romeo and Juliet Suite No. 2, Op. 64ter
グリーグ:『2つの抒情的小品』作品68より 第2曲「ゆりかごの歌」(管弦楽用編曲)
Edvard Grieg: No. 2 “At the Cradle” from 2 Lyric Pieces, Op. 68 (arr. for Orchestra)
ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』より
「王女たちのロンド」「魔王カスチェイの凶悪な踊り」
Igor Stravinsky: “Ring Dance of the Princesses” and “Infernal Dance of King Kastchei” from The Firebird Suite
武満 徹:『波の盆』
Toru Takemitsu: Nami No Bon (Tray of Waves)
アンダーソン:セレナータ
Leroy Anderson: Serenata
ファリャ:バレエ音楽『三角帽子』第2組曲より「粉屋の踊り」「終幕の踊り」
Manuel de Falla: “Danza del molinero” and “Danza final” from El sombrero de tres picos Suite No. 2
指揮:佐々木新平
Shimpei Sasaki, Conductor
東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra
司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC (Announcer of TV Asahi)
プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2026」テーマ曲
辻󠄀 理那子:『The Flying Cat』
辻󠄀 理那子さん(小学5年生)からのコメント
この曲は、私の飼っている猫「ララ」をイメージして作りました。ララは今年2歳になる、グレーと白のハチワレ顔のかわいい女の子です。
ララのお気に入りの場所は、リビングの窓際。走る車や歩く人を眺めているその姿は、まるで街をパトロールしているかのようです。窓の外に見える鳥や虫を追いかけ、冬には舞い落ちる雪をつかまえようと大きくジャンプ!! 1メートル20センチを超えるひと跳びは、空を飛んでいるように見えます。そこから、ララが空の上で遊んでいる様子を想像して、この曲で表現しました。
曲は、朝起きたララが窓際に向かって走っていく場面から始まります。今日はどんな一日が待っているんだろう。ワクワク、ドキドキの世界へ――Let’s Go!
飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
今年のこども定期演奏会は「音楽の実験」がテーマです。今日は作曲家たちが「もっと美しく、もっと激しく」音楽を表現するために、どのような工夫をしてきたのか、オーケストラのさまざまな作品をとおして味わっていきましょう。
プロコフィエフ:
バレエ組曲『ロメオとジュリエット』第2番 作品64ter より
第1曲「モンタギュー家とキャピュレット家」
最初はロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフ(1891~1953)が作曲したバレエ音楽からの1曲です。『ロメオとジュリエット』は、イギリスの有名な劇作家シェイクスピアが書いたお話で、モンタギュー家とキャピュレット家という仲の悪い家に生まれた若い男女が恋をし、悲しい結末を迎える物語です。この「モンタギュー家とキャピュレット家」という曲では、両家の激しい対立を表すために、プロコフィエフは思い切った工夫をしました。金管楽器や弦楽器の低い音が、重々しい音型を刻みます。そこに木管楽器や高い音の弦楽器が独特のリズムをもったメロディーで登場し、やがて音楽は激しさを増し、両家のにらみ合うような緊張感を表現しています。一方、曲の中間部分ではフルートが優しいメロディーを奏で、ハープやチェレスタの伴奏も美しく響きます。これはキャピュレット家の令嬢ジュリエットの美しさを思わせる音楽です。激しさと優雅さ、両方の響きの違いに注目してみましょう。
グリーグ:
『2つの抒情的小品』作品68より 第2曲「ゆりかごの歌」(管弦楽用編曲)
次は、ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグ(1843~1907)による曲です。グリーグは35年もの年月をかけて、ピアノのための小さな曲をたくさん作り『抒情小品集』としてまとめました。全部で66曲にもなるこの曲集には、自然の風景や暮らしの一場面を切り取ったような、親しみやすい曲がおさめられています。今日演奏する「ゆりかごの歌」も、そのひとつです。もとはピアノのための曲でしたが、今日はオーケストラのために編曲されたバージョンで聴いてもらいます。赤ちゃんを揺らすようなやさしいリズムで、ゆったりとした温かなメロディーが奏でられます。ピアノだけで演奏されるのとはひと味ちがった、オーケストラならではの美しい音の重なりを感じてください。
ストラヴィンスキー:
バレエ組曲『火の鳥』より
「王女たちのロンド」「魔王カスチェイの凶悪な踊り」
今度は、バレエのために書かれた音楽を聴いてもらいましょう。ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971)が作曲した『火の鳥』です。このバレエは、ロシアに伝わる古い民話に基づいており、1910年にパリで上演されて大成功をおさめ、当時28歳だったストラヴィンスキーは、一躍有名になりました。この音楽は、のちに組曲としてまとめられました。今日はその中から、とても美しい曲と、驚くほど激しい曲の2つを取り上げます。「王女たちのロンド」は、不死の魔王カスチェイの城の庭園に迷い込んだ主人公イワン王子が、カスチェイに捕らわれている13人の美しい王女たちと出会う場面の美しい音楽です。王女たちは、月明かりの下でりんごを手に踊っていて、イワン王子は王女の1人と恋に落ちます。フルートの穏やかな響きに続いて、オーボエが歌う美しい旋律は、ロシアの民謡をもとにしています。一方、強烈な和音の一撃で始まるのが「魔王カスチェイの凶悪な踊り」です。カスチェイとその手下たちが、魔法にかかって荒々しく乱舞する場面の音楽です。オーケストラのエネルギーが爆発するような、圧倒的な激しさで、スリリングな世界を描いていきます。
武満 徹:
『波の盆』
今年は、日本を代表する作曲家・武満徹(1930~96)が亡くなってから30年の節目にあたります。この曲は、武満が1983年秋に放送された日本テレビのドラマ「波の盆」のために書いた音楽です。ドラマは、その昔、日本からハワイへ渡った家族のお話です。戦争によって、父と息子の絆は切り裂かれてしまいますが、長い年月のあと、主人公と孫娘との出会いが、止まっていた時間を動かします。家族や平和の大切さを教えてくれるこの物語は、日本のテレビドラマ史に残る傑作として高く評価されました。ハワイに生きた日系移民の記憶や、お盆に家族が集う情景などを温かく伝えるこの作品に、武満は美しいメロディーをつけ、ゆったりとした魅力的な響きでドラマの世界を伝えています。
アンダーソン:
セレナータ
続いては、激しさと美しさが合わさった一曲を聴いてもらいましょう。『そりすべり』や『タイプライター』など親しみやすいオーケストラ曲で知られるアメリカの作曲家ルロイ・アンダーソン(1908~75)による『セレナータ』です。セレナータとは「夜に贈る歌」という意味で、恋人の家の窓辺で、楽器を奏でながら歌う曲のこと。アンダーソンは、中南米に伝わる軽快で情熱的なダンス「ビギン」のリズムを伴奏に取り入れ、そこに伸びやかで美しい旋律を重ね合わせました。1947年、ボストン・ポップスの演奏会で初演されると、たちまち評判となりました。
ファリャ:
バレエ音楽『三角帽子』第2組曲より「粉屋の踊り」「終幕の踊り」
最後の曲は、スペインの作曲家マヌエル・デ・ファリャ(1876~1946)の作品です。彼はスペイン各地に伝わる民謡や踊りのリズムを、クラシック音楽の中に生き生きと取り入れました。バレエ『三角帽子』は、村で小麦を粉にして働く夫婦を主人公にした、ユーモアあふれる物語。三角帽子をかぶった、町のえらい役人が、粉屋の美しい妻を自分のものにしようと悪だくみしますが、最後は村人たちにこらしめられてしまいます。今日は、その中から2曲をお届けします。「粉屋の踊り」は、力強い男性の踊り「ファルーカ」の激しいリズムを生かしながら、流れるようなメロディーも登場する音楽です。「終幕の踊り」は、スペインの民族舞曲「ホタ」のリズムに乗って、人々が喜びいっぱいに踊る華やかなフィナーレです。
コラム
人類のチャレンジと実験
[その3] 「宇宙のかなたへ、音楽を送った実験」
作曲家の武満徹さんが活躍していた時代、すばらしい挑戦が行われました。今から約50年前の1977年、アメリカのフロリダから、ボイジャー1号という探査機(宇宙を調べにゆく機械)が打ち上げられました。木星や土星をたずねたあと、そのまま太陽系の外まで飛んでゆくという長い旅に出たのです。この探査機には、あるふしぎな「手紙」が積みこまれていました。
それは、直径30センチほどの、金色にかがやく一枚のレコードです。「もし遠い未来、宇宙のどこかで宇宙人がボイジャーを見つけたなら、地球の音楽をきかせよう。」天文学者のカール・セーガンをリーダーとするチームは、そんな夢のような計画を立てたのです。
このレコードには、世界55種類の言葉のあいさつ、波や雷の音、動物の鳴き声、そして世界中から選ばれた27曲の音楽が刻まれました。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの音楽や、日本からは、尺八の名曲『鶴の巣篭り』。そしてなんと、今日みなさんが聴く『火の鳥』の作曲家、ストラヴィンスキーの『春の祭典』という曲も入っています。
このレコードは、何億年もの長いあいだ宇宙を旅しても壊れないように、特別につくられています。ボイジャー1号は、打ち上げから35年たった2012年、ついに太陽系の外へ飛び出しました。そして今このときも、たったひとりで、広く暗い宇宙のなかを、地球の音楽をたずさえて旅しつづけています。
いつか、はるか遠い星のだれかが、そのレコードに耳をかたむける日がくるかもしれません。ひょっとすると、もうどこかの星の宇宙人が聴いているかも!? 今日みなさんが聴く『火の鳥』と、はるかな宇宙のかなたで鳴る『春の祭典』。同じ作曲家の音楽が、時空を越えて響きあう日を想像すると、なんだかワクワクしますね。
(文 飯田有抄)



