プログラムノート

第97回 2026年5月10日(日)『どこまで高く、どこまで低く』

東京交響楽団&サントリーホール

「こども定期演奏会」
音楽の実験
第97回 「どこまで高く、どこまで低く」
2026年5月10日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール

「こども定期演奏会2026」テーマ曲(清水大輔 編曲)
辻 理那子:『The Flying Cat』
Rinako Tsuji (arr. Daisuke Shimizu): Theme Music of “Subscription Concert for Children 2026”

ラフマニノフ(シュミッド 編曲):前奏曲 嬰ハ短調 作品3-2「鐘」(管弦楽用編曲)
Sergei Rachmaninoff (arr. Adolf Schmid): Prelude in C-sharp Minor, Op. 3, No. 2 (arr. for Orchestra)

ボブ佐久間:『インストゥルメンタル・ブルース』
Bob Sakuma: Instrumental Blues

グローフェ:組曲『グランド・キャニオン』より 第4曲「日没」
Ferde Grofé: No. 4 “Sunset” from Grand Canyon Suite

リーバーマン:ピッコロ協奏曲 作品50 より 第3楽章 *
Lowell Liebermann: Piccolo Concerto, Op. 50 *
III. Presto

ヴォーン・ウィリアムズ:バス・テューバ協奏曲 ヘ短調 より 第1楽章 **
Ralph Vaughan Williams: Bass Tuba Concerto in F Minor **
I. Prelude: Allegro moderato

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98 より 第3楽章
Johannes Brahms: Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98
III. Allegro giocoso

指揮:角田鋼亮
Kosuke Tsunoda, Conductor

ピッコロ:濱﨑麻里子 *
Mariko Hamasaki, Piccolo *

テューバ:近藤陽一 **
Yoichi Kondo, Tuba **

東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra

司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC (Announcer of TV Asahi)


プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2026」テーマ曲
辻 理那子:『The Flying Cat』


辻 理那子さん(小学5年生)からのコメント
 この曲は、私の飼っている猫「ララ」をイメージして作りました。ララは今年2歳になる、グレーと白のハチワレ顔のかわいい女の子です。 
 ララのお気に入りの場所は、リビングの窓際。走る車や歩く人を眺めているその姿は、まるで街をパトロールしているかのようです。窓の外に見える鳥や虫を追いかけ、冬には舞い落ちる雪をつかまえようと大きくジャンプ!!  1メートル20センチを超えるひと跳びは、空を飛んでいるように見えます。そこから、ララが空の上で遊んでいる様子を想像して、この曲で表現しました。 
 曲は、朝起きたララが窓際に向かって走っていく場面から始まります。今日はどんな一日が待っているんだろう。ワクワク、ドキドキの世界へ――Let’s Go!

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

 「音楽の実験」をテーマにお届けする2026年のこども定期演奏会。作曲家たちはいつの時代も、オーケストラという巨大な「楽器」を手に、だれも聴いたことのない響きを生み出そうと、さまざまな実験を重ねてきました。今日の実験テーマは「どこまで高く、どこまで低く」。高い音・低い音をめぐる冒険を、一緒に体験しましょう!

ラフマニノフ(シュミッド 編曲):
前奏曲 嬰ハ短調 作品3-2「鐘」(管弦楽用編曲)

 「鐘」と呼ばれるこの曲は、ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943)が音楽学校を卒業したばかりのころに作ったピアノ曲です。今日はオーケストラ用の編曲版を聴いてもらいます。最初に「ラ-ソ♯-ド♯」という3つの音が、ロシアの宮殿に響く鐘の音をイメージして低く重く鳴り響きます。やがてテンポを上げて、激しい曲想となりますが、再び鐘のメロディーが戻ってきます。弦楽器や金管楽器が重なり合って生まれる、どっしりとしたハーモニーが、音楽を力強く盛り上げます。どこまでも深く壮大に鳴り響くオーケストラの響きを感じ取りましょう。  

ボブ佐久間:
『インストゥルメンタル・ブルース』

 作曲者のボブ佐久間(1949~ )はかつて、このコンサートで演奏している東京交響楽団のヴァイオリン奏者でした。その後ジャズ・ピアニストとして新たな道を歩み、さらにはテレビドラマやアニメの音楽を手がける作曲家としても活躍しています。ハリウッドに住んで映画音楽を学んだこともあり、とてもユニークな経歴の持ち主です。
 タイトルにある「インストゥルメンタル」とは英語で「楽器」のこと。「ブルース」はアメリカで生まれた音楽スタイルで、独特のリズムと少しだけ哀愁のあるかっこいい響きが特徴です。
 この曲は、弦楽器の中でいちばん低い音を出すコントラバスの独奏で静かに始まります。そこへチェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンと、だんだん高い音を出す弦楽器が加わります。続いて木管楽器もファゴット、クラリネット、オーボエ…と低い音域から加わり、フルートとピッコロがとても高い響きで登場します。金管楽器もテューバやトロンボーンといった低い音域の楽器から登場し、ホルンやトランペットが華やかな響きで加わります。打楽器やハープの賑やかなサウンドも加わって、最後は全員で楽しく盛り上がります。「どこまで高く、どこまで低く」という今日の実験テーマにぴったりのオーケストラ曲です。

グローフェ:
組曲『グランド・キャニオン』より 第4曲「日没」

 グランド・キャニオンは、アメリカのアリゾナ州にあるとても大きな谷です。コロラド川が何百万年もかけて岩をけずって生まれた谷で、その長さは約450キロメートル、もっとも深いところは1800メートル近くもあり、壮大な景色が広がっています。
 アメリカの作曲家ファーデ・グローフェ(1892~1972)は、この大自然の風景に感動し、1931年に組曲『グランド・キャニオン』を作曲しました。全部で5曲からなり、峡谷の一日の様子を音楽で描いています。「日没」はその第4曲にあたります。太陽がゆっくりと沈み、大きな岩が夕陽に赤く染まっていく情景を表現しています。曲の終わりのほうでは、ヴァイオリンが高く澄み切った響きで、消えゆく光のような美しいメロディーを歌い上げ、グランド・キャニオンが静かに夕闇に包まれていく様子を描きます。

リーバーマン:
ピッコロ協奏曲 作品50 より 第3楽章

 ピッコロは、イタリア語で「小さい」という意味の言葉で、大きさはフルートの約半分、オーケストラの中ではいちばん高い音を出せる木管楽器です。アメリカの作曲家ロウェル・リーバーマン(1961~ )は、そんなピッコロの魅力をたっぷり味わえる協奏曲を作りました。今日演奏される第3楽章は、ピッコロがめまぐるしく動き回り、その超高音域をフルに使った華やかな音楽です。
 実はこの楽章の中には、過去の有名な作曲家たちが書いたメロディーが隠されています。ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」やモーツァルトの交響曲第40番からのワンフレーズがひょっこりと現れ、スーザの行進曲『星条旗よ永遠なれ』の華やかなメロディーも出てきます。元の曲を知らなくても大丈夫。音の宝探しをするような気持ちで、ピッコロとオーケストラの楽しい掛け合いに耳を澄ませましょう。

ヴォーン・ウィリアムズ:
バス・テューバ協奏曲 ヘ短調 より 第1楽章

 テューバは、オーケストラの中でいちばん低い音を出す金管楽器です。どっしりとした低音でオーケストラ全体を支える「縁の下の力持ち」――それがテューバの一般的なイメージでした。ところが、イギリスの作曲家レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872~1958)は、81歳のときに、テューバが主役となって活躍する協奏曲を作ると発表しました。周りの人たちは「あの大先生が冗談を言っているのだろう」と受け取ったといいます。しかしヴォーン・ウィリアムズは大真面目でした。テューバにも、まるで歌を歌うように奏でる力があることを証明したかったのです。
 1954年に完成したこの曲は、世界初の本格的なテューバ協奏曲として知られています。曲は全部で3つの楽章でできていますが、今日演奏する第1楽章は、行進曲風のリズムに乗って、テューバが軽快で活き活きとした主題を奏でます。

ブラームス:
交響曲第4番 ホ短調 作品98 より 第3楽章

 ドイツの作曲家ヨハネス・ブラームス(1833~97)が1885年に書いた、彼の最後の交響曲です。初演は人々を熱狂させ、大成功を収めました。
 この交響曲は、全部で4つの楽章で作られています。今日演奏される第3楽章は、とてもエネルギッシュで快活な音楽です。冒頭から勢いよく飛び出す主題が次々と展開し、オーケストラ全体が大きなうねりとなって盛り上がっていきます。きっとみなさんの学校の音楽室にもある小さな打楽器のトライアングルも、この楽章では重要な役割を担っています。ティンパニが地響きのように低い音で連打する中、トライアングルも高らかに響き、すべての楽器が一気に最高潮へ――どこまでも高く、力強く駆け上がるオーケストラの迫力を全身で感じてみてください。


コラム
人類のチャレンジと実験
[その1] 人間が「高さ」を手に入れた日

 今日のコンサートには、ラフマニノフとグローフェという、20世紀前半に活躍した二人の作曲家の音楽が登場します。実はその時代、人類の歴史にとって、ものすごい実験が行われ、成功を収めました。それは、「飛行機が空を飛ぶ」という実験です。
 1903年12月17日。冷たい風が吹くアメリカ、ノースカロライナ州キティホークの砂丘で、その実験は行われました。挑んだのは、自転車屋を営んでいたウィルバーとオーヴィルの「ライト兄弟」です。彼らは自分たちで設計した、2つのプロペラとエンジンの付いた飛行機に乗り込み、操縦して空を飛ぼうと挑んだのです。
 それまでも気球のようにフワフワと空に浮かぶ乗り物はありましたが、エンジンを積んだ重い機械が、自分の力で地面を離れ、さらに操縦しながら飛ぶなどということは「魔法でも使わない限りぜったいにムリ!」と思われていました。
 午前10時35分。弟オーヴィルが乗り込んだ飛行機「ライトフライヤー号」が滑走を始めます。そして……機体はふわりと宙に浮かびました! 飛行時間はわずか12秒、距離は約36メートル。学校の25メートルプールを少し越えるほどの短い距離ですね。けれど、この「12秒」は、人類が初めて自分の力で空を飛んだ歴史的な瞬間でした。
 ライト兄弟は、それまでに何百回も模型を作って飛ばし、風の流れを調べ、墜落しては作り直すという実験を繰り返していました。特別な科学者ではなく、町の自転車屋だった二人の情熱と努力が、世界を大きく変えたのです。その小さな「12秒の飛行」から、やがて飛行機はどんどん改良され、人々は世界中の空を自由に飛び回るようになります。はじめはほんの小さな成功でも、未来を大きく変える第一歩となるのです。

飛行機「ライトフライヤー号」
(文 飯田有抄)