第95回 2025年9月7日(日)『東欧、北欧、ロシア』
バークレイズ証券株式会社 特別協賛
東京交響楽団&サントリーホール
「こども定期演奏会」
音楽世界めぐり
第95回 「東欧、北欧、ロシア」
2025年9月7日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール
「こども定期演奏会 2025」テーマ曲(和田 薫 編曲)
柴崎日花里:『1分間の夢旅行』
Hikari Shibasaki (arr. Kaoru Wada): Theme Music of “Subscription Concert for Children”
ハチャトゥリヤン:組曲『仮面舞踏会』より 第1曲「ワルツ」
Aram Khachaturian: No. 1 “Waltz” from Masquerade Suite
ドヴォルジャーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 より 第3楽章 *
Antonín Dvořák: Cello Concerto in B Minor, Op. 104
III. Finale: Allegro moderato
チャイコフスキー:バレエ組曲『眠りの森の美女』作品66a より 第5曲「ワルツ」
Pyotr IlyichTchaikovsky: No. 5 “Waltz” from Sleeping Beauty Suite, Op. 66a
シベリウス:交響詩『フィンランディア』作品26
Jean Sibelius: Finlandia, Op. 26
指揮:藤岡幸夫
Sachio Fujioka, Conductor
チェロ:宮田 大 *
Dai Miyata, Cello
東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra
司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC (Announcer of TV Asahi)
プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2025」テーマ曲
柴崎日花里:『1分間の夢旅行』
柴崎日花里さん(中学1年生)からのコメント
1分間の夢旅行は、夜、私がふとんに入った時、夢の中で旅行ができたらいいなと思っていたらひらめいた曲です。私なら旅行の行き先はビッグベンがあるロンドンを思い浮かべます。他にも空想の世界を旅してもいいし、おしゃれなホテルで本を読んでもいいしどんなイメージでもいいのです。自由に自分だけの夢旅行を想像しながら聴いてくださったら嬉しいです。
そしてこの曲を作る時に支えてくださった先生方、ありがとうございました!そろそろ出発のお時間となったようです。それでは皆様、1分間の夢旅行に、行ってらっしゃい!
飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
今年のこども定期演奏会のテーマは「音楽世界めぐり」です。今日は、「東欧、北欧、ロシア」の素敵なオーケストラ音楽をお届けします。「北欧」とは北ヨーロッパのことです。スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、アイスランドといった国です。「東欧」とは、東ヨーロッパのこと。チェコ、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、ウクライナといった国々があげられます。そしてさらに東に位置する広大な国ロシア。今日はこれらの地域から4人の作曲家が登場します。
ハチャトゥリヤン:
組曲『仮面舞踏会』より 第1曲「ワルツ」
最初に演奏されるのは、今のロシアが「ソビエト連邦」という国だったころに活躍した作曲家アラム・ハチャトゥリヤン(1903~78)の作品です。この曲は、1941年に上演された『仮面舞踏会』というお芝居のために書かれました。その劇は、昔のロシアの貴族の物語です。主人公のアルベーニンは、仮面舞踏会で妻が落とした腕輪を若い貴族の男性が持っているのを見て、「妻が浮気をしている」と勘違いしてしまいます。アルベーニンは妻を毒入りアイスクリームで殺してしまいますが、実は、腕輪は、別の女性が拾って男性にあげただけだったと分かりました。無実の妻を殺してしまった後悔で、アルベーニンは気が狂ってしまうという悲しい物語です。ハチャトゥリヤンはこのお話のために作った14曲の中から、5曲を選んでオーケストラ用の組曲にしました。とくに第1曲の「ワルツ」は、組曲全体の中でもっとも有名で、3拍子のリズムに乗せて、美しくてどこか物悲しいメロディーが奏でられます。今では『仮面舞踏会』のお芝居そのものは上演されることは滅多にありませんが、ハチャトゥリヤンのこの曲は広く親しまれています。
ドヴォルジャーク:
チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 より 第3楽章
アントニーン・ドヴォルジャーク(1841~1904)は、現在のチェコの西部にあたるボヘミアの、小さな村の肉屋と宿屋をいとなむ家に生まれました。ヴァイオリンがとても上手だったので、周りの大人たちや音楽の先生に応援され、音楽家を目指しました。やがて作曲家として活躍し始めると、ボヘミアの独特なリズムや美しいハーモニーを持つドヴォルジャークの音楽は、ヨーロッパ中のみならず新大陸アメリカにまで伝わりました。そしてドヴォルジャークが51歳の時(1892年10月)、ニューヨーク・ナショナル音楽院の院長として迎えられます。アメリカでおよそ2年半を過ごしたドヴォルジャークですが、祖国をとても愛していたので、ボヘミアが恋しくて深刻なホームシックになってしまいました。そんな中、やっとの思いで完成させた特別な作品が、このチェロ協奏曲です。今日演奏される第3楽章は、ボヘミアの民族舞曲を思わせるリズミカルな音楽で、チェロが情熱的なメロディーを聴かせます。オーケストラと一緒に奏でる明るく爽やかな音楽や、甘く夢見るようなフレーズも響かせます。曲の終わりの方では、チェロがゆったりとした美しいメロディーを奏で、オーケストラ全体の輝かしい響きで締めくくります。
チャイコフスキー:
バレエ組曲『眠りの森の美女』作品66a より 第5曲「ワルツ」
ふたたびロシアの作曲家の登場です。さきほどのハチャトゥリヤンよりも60年ほど前に活躍したピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93)は、さまざまな楽器の音色をたくみに使い分け、豪華で立派なオーケストラ曲を残しています。彼は、バレエのための音楽も、オーケストラで演奏するからには交響曲と同じくらいに立派であるべきだと考え、力をそそいで作曲しました。そんな彼の作った『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』は、「3大バレエ音楽」として愛され続けています。今日演奏されるのは、『眠りの森の美女』の音楽です。このバレエは、1890年に初めて上演されました。美しいオーロラ姫が16歳の誕生日の日、悪い妖精カラボスにかけられた呪いによって、糸車の針で指を刺してしまい、100年の眠りに落ちてしまいます。姫を目覚めさせることができるのは、心優しい王子の愛のキスだけ……そんな、よく知られたストーリーです。チャイコフスキーは、バレエの振り付けを担当する専門家と密に話し合いながら、この美しい音楽を作り上げました。本日演奏される「ワルツ」は、オーロラ姫の誕生日を祝って村の娘たちが色とりどりの花輪を持って踊る場面の、華やかで上品な音楽です。同じロシアの作曲家による「ワルツ」でも、ハチャトゥリヤンの音楽とはまた違った雰囲気が感じられると思います。
シベリウス:
交響詩『フィンランディア』 作品26
おしまいは北欧の国フィンランドの作曲家ジャン・シベリウス(1865~1957)が1899年に作曲した作品です。作曲家を志したころのシベリウスは、チャイコフスキーなどお隣の国ロシアの作曲家たちの優れた作品に感動し、多くを学んでいました。しかし政治の世界では、フィンランドはロシアの支配に苦しめられていました。フィンランドの人々は、自分たちの国をロシアから守り、独立したいという気持ちを高めていました。シベリウスもまた、フィンランド人としての誇りを大切にし、民族への深い愛情を込めた音楽を作ろうと決意します。そうして完成させた交響詩『フィンランディア』は、母国フィンランドの人々に大きな勇気と希望を与えます。この曲がフィンランドの国民を奮い立たせ、戦いを挑んでくるのではないか……そう心配したロシア政府は作品の演奏を禁止したほど、人気の曲となりました。冒頭はとても重く暗い音楽で始まります。これは、自由を奪われた人々の苦しみが表されています。だんだんと困難に負けない強い気持ちが表現され、そして感動的なクライマックスを迎えます。中間部に出てくる美しいメロディーは、のちに「フィンランディア讃歌」という歌として歌われるようになりました。今でもこの美しいメロディーは、フィンランドのもう一つの国歌として国民に愛され続けています。
コラム
グルメ世界めぐり~心も体も温まるロシア料理
コンサートに登場したハチャトゥリヤンとチャイコフスキーが暮らしたロシアのグルメを、今日はご紹介しましょう。ロシアは冬の寒さがとても厳しい国です。首都モスクワではマイナス30度まで下がることもあり、シベリア地方ではなんとマイナス40度にまで冷え込みます。そんなロシアには、体がポカポカに温まるおいしい料理がたくさんあります。たとえば、真っ赤な色のスープ「ボルシチ」です。ウクライナ発祥のこのスープの色は、ビートという野菜から出ています。ビートは大根のような見た目ですが、中は赤紫色をした野菜です。ボルシチには、このビートのほかに、キャベツやにんじん、じゃがいも、お肉などがたくさん入っていて、とても栄養満点です。寒いロシアの冬を乗り切るための、体を温める大切な料理なのです。サワークリームを落として食べると、まろやかでとてもおいしいですよ。
「ピロシキ」も有名です。生地の中に、お肉や野菜、ゆで卵などの具を包んで揚げたり焼いたりしたお惣菜のパンで、日本でもお馴染みです。キャベツやじゃがいも、きのこなど、いろいろな具が楽しめます。「ピロシキ」とは、ロシア語で「小さなパイ」という意味なのだそうです。
最後は「ビーフストロガノフ」です。牛肉を細く切って、きのこやたまねぎと一緒にサワークリームで煮込んだ料理です。この料理を生んだストロガノフ家という貴族の名前にちなんで、この料理名になったと言われています。クリーミーで上品な味で、ご飯やパスタと一緒に食べるととてもおいしいです。
ロシア料理は、寒い季節を乗り越えるための、工夫がいっぱい詰まったおいしい料理ばかりです。日本でも食べられるお店があるので、ぜひ味わってみてくださいね!

(文 飯田有抄)