第93回 2025年5月11日(日)『日本&アジア』
バークレイズ証券株式会社 特別協賛
東京交響楽団&サントリーホール
「こども定期演奏会」
音楽世界めぐり
第93回 「日本&アジア」
2025年5月11日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール
「こども定期演奏会 2025」テーマ曲(和田 薫 編曲)
柴崎日花里:『1分間の夢旅行』
Hikari Shibasaki (arr. Kaoru Wada): Theme Music of “Subscription Concert for Children”
ワーグナー:楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より
第1幕への前奏曲 *
Richard Wagner: Prelude to Act 1 from Die Meistersinger von Nürnberg
ベートーヴェン:劇音楽『アテネの廃墟』作品113 より
第4曲「トルコ行進曲」
Ludwig van Beethoven: No. 4 “Turkish March” from Die Ruinen von Athen, Op. 113
チャイコフスキー:バレエ組曲『くるみ割り人形』作品71a より
「アラビアの踊り」「中国の踊り」
Pyotr Ilyich Tchaikovsky: “Arabian Dance” and “Chinese Dance”
from The Nutcracker Suite, Op. 71a
尾高尚忠:フルート協奏曲 作品30b より 第1楽章、第3楽章 *
Hisatada Otaka: Flute Concerto, Op. 30b
I. Allegro con spirito
III. Molto vivace
伊福部 昭:『シンフォニア・タプカーラ』より 第3楽章
Akira Ifukube: Sinfonia Tapkaara
III. Vivace
外山雄三:管弦楽のためのラプソディ
Yuzo Toyama: Rhapsody for Orchestra
指揮:太田 弦
Gen Ohta, Conductor
フルート:高木綾子 *
Ayako Takagi, Flute
東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra
司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC (Announcer of TV Asahi)
プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2025」テーマ曲
柴崎日花里:『1分間の夢旅行』
柴崎日花里さん(中学1年生)からのコメント
1分間の夢旅行は、夜、私がふとんに入った時、夢の中で旅行ができたらいいなと思っていたらひらめいた曲です。私なら旅行の行き先はビッグベンがあるロンドンを思い浮かべます。他にも空想の世界を旅してもいいし、おしゃれなホテルで本を読んでもいいし、どんなイメージでもいいのです。自由に自分だけの夢旅行を想像しながら聴いてくださったら嬉しいです。
そしてこの曲を作る時に支えてくださった先生方、ありがとうございました!
そろそろ出発のお時間となったようです。それでは皆様、1分間の夢旅行に、行ってらっしゃい!
飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)
今年のこども定期演奏会は、「音楽世界めぐり」をテーマにお届けします。世界中のさまざまな国や地域の情景や人々の思いを、オーケストラの音楽があざやかに描き出します。今日は、「日本&アジア」の音楽を旅していきましょう。
ベートーヴェン:
劇音楽『アテネの廃墟』作品113 より 第4曲「トルコ行進曲」
トルコの軍楽隊が演奏するド派手な行進曲を、ドイツ人のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)がイメージして作ったのが、この「トルコ行進曲」です。昔、トルコ(オスマン帝国)は、アジア、ヨーロッパ、アフリカに広がるとても大きな国でした。16世紀にはトルコ軍がハンガリーやオーストリアにも攻め込み、ヨーロッパの人々に恐れられていました。しかし、18世紀になるとトルコの力はだんだんと弱まり、ベートーヴェンが生きていたころには、もうあまり強くありませんでした。それでも、太鼓やシンバルをジャンジャン鳴らし、甲高い音の管楽器が大音量で響いたトルコの軍楽は、あまりにインパクトがあったので、ヨーロッパの音楽家たちに影響を残したのです。ベートーヴェンは、1811年、『アテネの廃墟』というお芝居の音楽を作るように頼まれ、その中でトルコ軍が登場する場面のために、この行進曲を作りました。力強くて元気いっぱいの音楽からは、勇ましさが伝わります。ちなみに、トルコの軍楽はモーツァルトにも影響を与え、オペラ『後宮からの誘拐』や、ピアノ・ソナタ第11番 第3楽章「トルコ行進曲」にも登場しています。
チャイコフスキー:
バレエ組曲『くるみ割り人形』作品71a より「アラビアの踊り」「中国の踊り」
『くるみ割り人形』は、ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93)が音楽を作ったバレエです。物語の舞台はクリスマス・イブの夜。少女クララがプレゼントにもらったくるみ割り人形が、夜になると王子の姿に変わります。そして二人は、お菓子の国へ旅をし、そこで妖精たちの楽しいダンスを見るのです。まるで夢の中のような美しい世界が広がります。チャイコフスキーは、とくに人気のある8曲をえらび、「組曲」としてまとめました。「アラビアの踊り」は、アラビア地方でとれるコーヒー豆の妖精たちが踊る場面の音楽です。ゆったりとしたメロディーは、グルジア地方(今のジョージア)の子守唄がもとになっています。チャイコフスキーは、この音楽に「東洋風」の雰囲気を出そうとしました。どこかふしぎで、遠い国の世界を思い浮かべるような音楽になっています。「中国の踊り」は、お茶の妖精が可愛らしく舞う音楽です。ファゴットやコントラバスが低い音でリズムを刻み、フルートとピッコロが駆け上がるような明るいメロディーを奏でます。
尾高尚忠:
フルート協奏曲 作品30b より 第1楽章、第3楽章
1911年に東京で生まれた尾高尚忠(1911~51)は、1930年代にウィーンでピアノ、作曲、指揮を学んだ日本の音楽家です。ウィーン交響楽団やベルリン・フィルハーモニー管弦楽団などの名門オーケストラを指揮したことでも知られています。第二次世界大戦後、作曲家・指揮者としても大忙しの日々を送りましたが、残念ながら39歳という若さで亡くなりました。もしもっと長く生きていたら、素晴らしい作品をたくさん生み出していたことでしょう。フルート協奏曲は、そんな尾高尚忠が最後に手がけた作品です。1948年に小さなオーケストラ用に書き上げましたが、1951年に新たに大きなオーケストラ用に書き直し、その途中で亡くなりました。残りの部分は弟子の作曲家・林光が引き継いで完成させ、多くのコンサートで演奏されるようになりました。今日は独奏フルートが軽やかなメロディーを奏でる第1楽章と、エネルギッシュな第3楽章を演奏します。
伊福部 昭:
『シンフォニア・タプカーラ』より 第3楽章
伊福部昭(1914~2006)は1914年に北海道の釧路で生まれ、独学で作曲を学びました。伊福部昭のとても有名な作品といえば、映画『ゴジラ』の音楽です。1954年に公開された第1作から、彼の作った迫力満点の音楽は映画に欠かせないものとなりました。今日演奏される『シンフォニア・タプカーラ』は、『ゴジラ』が公開された年に完成した作品です。「タプカーラ」という言葉は、アイヌ語で「立って踊る」という意味です。アイヌ民族は、伊福部昭が生まれ育った北海道に、日本人がやってくる前から暮らしていた人々です。彼らは、喜びや悲しみの気持ちを素直に言葉や踊りで表し、思いのままに歌い踊る伝統を持っています。伊福部は少年時代に触れた彼らの踊りや音楽、そして北海道の広大な自然を表現しようと、1954年にこの曲を作りました。その後1979年に書き直され、人気の作品となっています。今日演奏される第3楽章は、生き生きと弾むようなリズムが続きます。中間部では少し穏やかな雰囲気となり、いくつもの民謡風のメロディーが重ね合わされるのも聴きどころです。
外山雄三:
管弦楽のためのラプソディ
1931年に東京で生まれた外山雄三(1931~2023)は、2年前に92歳で亡くなった指揮者・作曲家です。外山雄三の作品には、よく日本の民謡のメロディーが使われます。彼は「現代に生きるわたしたちの音楽を書きたい」と考え、日本ならではの音楽を作りたいと思っていました。そこで、日本人にとって身近で大切なものである民謡を生かそうと考えたのです。『管弦楽のためのラプソディ』は、つぎつぎと民謡が登場する楽しい作品です。「あんたがたどこさ」(わらべうた)や、「ソーラン節」(北海道民謡)、「串本節」(和歌山民謡)、「信濃追分」(信州民謡)、「八木節」(群馬県・栃木県俗謡)などが出てきます。21世紀の私たちにとって、少し馴染みが薄い民謡もあるかもしれませんが、祭囃子でも使われるチャンチキや、拍子木、和太鼓などの打楽器の音も響いて、どこか懐かしい気持ちが湧いてきます。この曲は1960年にNHK交響楽団が海外ツアーを行うにあたり作曲されました。音楽で日本を紹介したいという思いも伝わってきますね。
コラム
グルメ世界めぐり~トルコのおいしい料理
今年のテーマ「音楽世界めぐり」にちなんで、コラムのコーナーでは世界の美味しいお料理を紹介していきます!今回は、プログラムのベートーヴェンの「トルコ行進曲」にちなみ、トルコ料理をとりあげましょう。世界中の人々から愛されるほど、トルコにはおいしい料理がたくさんあります。
代表的なものに、お肉料理のケバブがあります。「ケバブ」とは、トルコ語で「焼いた肉」という意味です。ドネルケバブと呼ばれるものは、大きいお肉のかたまりを、くるくると回しながら火で炙り、表面がカリッと焼けたところから切り取って食べます。トルコ料理のお店では、焼いているところを見せている場合もあります。薄く切ったお肉はサンドイッチにしたり、ご飯と一緒に食べたりします。シシケバブは、牛や羊の肉を串にさし、バーベキューのように焼いたケバブです。「シシ」とは串の意味なのです。スパイスで味付けされているので、香りがとてもいいんですよ。
「ピデ」と呼ばれるトルコ風のピザもあります。細長いボートのような形をしていて、チーズや野菜、お肉を乗せて焼きます。外はカリッと、中はふんわり! トロトロの卵を乗せて食べるピデも人気です。
トルコのデザートといえば、トルコアイスがあります。バニラ味が定番ですが、日本のアイスとは違って、もちもちとしていて、スプーンですくうとびよ~んと伸びます。植物から採れるサレップという粉やマスティックという樹液を混ぜているから伸びるのです。
日本でもトルコ料理のレストランやイベントでも食べられるところがあるので、チャンスがあったら味わってみましょう!

(文 飯田有抄)