プログラムノート

第86回 2023年7月9日(日)『 赤』

バークレイズ証券株式会社 特別協賛
東京交響楽団&サントリーホール

2023年7月9日(日)11:00開演
サントリーホール 大ホール

「こども定期演奏会 2023」テーマ曲(上田素生 編曲):
石川真子:『音楽の色いろ』
Mako Ishikawa (arr. Motoki Ueda): Theme Music of “Subscription Concert for Children”

ビゼー:オペラ『カルメン』より 第1幕への前奏曲
Georges Bizet: Prelude to Act 1 from Carmen

ネッケ(赤堀文雄 編曲):『クシコス・ポスト』
Hermann Necke (arr. Fumio Akabori): Csikós Post

ポッパー(シュレーゲル 編曲):ハンガリー狂詩曲 作品68 *
David Popper (arr. Max Schlegel): Hungarian Rhapsody, Op. 68 *

日本の歌メドレー(和田 薫 編曲):「赤とんぼ」「夕焼け小焼け」
Medley of Japanese Folk Songs (arr. Kaoru Wada): “Aka Tombo” “Yuyake Koyake”

ラヴェル:『ボレロ』
Maurice Ravel: Boléro


指揮:川瀬賢太郎
Kentaro Kawase, Conductor

チェロ:上野通明 *
Michiaki Ueno, Cello

東京交響楽団
Tokyo Symphony Orchestra

司会:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
Naoki Tsuboi, MC (Announcer of TV Asahi)

プログラム・ノート
「こども定期演奏会 2023」テーマ曲
石川真子:『音楽の色いろ』


石川真子さん(小学6年生)からのコメント

 この曲は、おいしいスイーツを食べた時に浮かんだフレーズを用いて作りました。ケーキの「スポンジがステージ」で、その上にのっている「フルーツたちがオーケストラ」のイメージです。様々な色のフルーツたちが音楽を奏でています!
 今年のテーマ「音楽の色いろ」のように、音楽の色々な記号や形、ハーモニーの色を最大限生かせるよう、意識しました。半音階やスケール、トリルやターンなどを取り入れ、和音の移り変わりも感じて作りました。「con grazia(優雅に、優美に)」ですが、どこか楽しい雰囲気もあるような、素敵な音楽の世界を表現してみました。
 曲の中に、たくさんの色が散りばめられているので、ぜひ皆さんに、どんな色なのか想像しながら聴いてほしいです!

飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

 今年のこども定期演奏会のテーマは「音楽の色いろ」。オーケストラは弦楽器・管楽器・打楽器のさまざまな音色が合わさって、鮮やかに音楽を奏でます。今日は「赤」をテーマにお届けします。赤は赤でも、いろんな赤があるかもしれませんね。あなたはどんな赤を感じるでしょうか。

ビゼー:オペラ『カルメン』より 第1幕への前奏曲

 プログラムの最初は、勢いよく華やかな曲です。世界中でもっともよく上演されているオペラ(歌劇)『カルメン』のはじめに演奏される「前奏曲」です。フランス人の作曲家ジョルジュ・ビゼー(1838~75)が作りました。この劇には、自由気ままに振る舞うモテモテの女性カルメンや、勇ましくてかっこいい闘牛士のエスカミーリョというキャラクターたちが登場します。
 闘牛とは、牛と人とが闘う競技のことです。『カルメン』の物語の舞台であるスペインでは、闘牛が古くから行われてきました。闘牛士は真っ赤な布をちらつかせながら、大きな牛を興奮させて闘います。
 この曲は、闘牛士が闘牛場に入場するときの晴れやかな行進曲(A)と、エスカミーリョが酒場で「乾杯しよう!」と歌う“闘牛士の歌”(B)のメロディーが、A-B-Aの順番で出てきます。

ネッケ(赤堀文雄 編曲):『クシコス・ポスト』

 タイトルの「クシコス・ポスト」とは、“郵便馬車”という意味です。たくさんの手紙を積んだ馬車が、忙しそうに走り回っている様子が目に浮かぶ音楽ですね。今の郵便屋さんはもちろんバイクや自動車に乗って配達をしていますが、この曲が作られた1895年頃には、まだ馬が使われていたのです。作曲者はドイツ人のヘルマン・ネッケ(1850~1912)。彼は『ハンガリーからの響き』という曲集の中の一曲として、ピアノ連弾用にこの曲を作りました。今日は日本の編曲家・赤堀文雄(1929~2003)がオーケストラ用に編曲したバージョンで聴いてもらいます。日本では運動会の定番BGMとしておなじみです。

ポッパー(シュレーゲル 編曲):ハンガリー狂詩曲 作品68

 次の曲はダーヴィト・ポッパー(1843~1913)というチェロの名手が作りました。ポッパーの名前は今ではあまり知られていないかもしれませんが、彼はどんな難しい曲もみごとに弾きこなし、ヨーロッパ中をツアーで巡り、人気を博していました。
 ポッパーはプラハ(今のチェコ共和国の首都)で生まれました。当時プラハはオーストリア=ハンガリー帝国という大きな国の一部でした。1893年に作曲されたこのハンガリー狂詩曲は、ポッパーが親しんできたハンガリーの民謡をベースにして作られています。
 もともとはチェロとピアノのための曲ですが、4年後にマックス・シュレーゲルという人がオーケストラ用にも編曲をしました。曲は6つの部分でできています。チェロだけがとても難しいパッセージを弾くところもあります。もしかすると「あれ?どこかで聴いたことがあるかも」と思うメロディーが出てくるかもしれません。実はフランツ・リスト(1811~86)の有名なピアノ曲『ハンガリー狂詩曲』第6番や第8番にも登場するハンガリーのメロディーが、この曲でも使われているのです。

日本の歌メドレー(和田 薫 編曲):「赤とんぼ」「夕焼け小焼け」

 今日のテーマカラー「赤」にちなんだ、日本の美しい歌をオーケストラの演奏で聴きましょう。
 「赤」といえば「赤とんぼ」。1番の歌詞は「夕焼け小焼けの 赤とんぼ 負われて見たのは いつの日か」という歌詞です。歌の3番には「姐や」、つまりお世話をしてくれたお姉さんが出てきます。きっとお姉さんに「負われて」=おんぶされて、夕焼けを見たのでしょう。この曲は100年近く前に作られたものですが(三木露風・作詞、山田耕筰・作曲)、日本で知らない人はいないくらい、広く歌い続けられています。もう1曲は「夕焼け小焼け」。これも100年ほど前に作られた歌です(中村雨紅・作詞、草川信・作曲)。「夕焼け小焼けで日が暮れて 山のお寺の鐘が鳴る おててつないで みなかえろう からすといっしょに かえりましょ」と歌われます。100年前も今も、赤い夕焼けの美しさは変わっていないのでしょうね。

ラヴェル:『ボレロ』

 プログラムの最後は、フランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875~1937)の作品です。ラヴェルは「オーケストラの魔術師」と呼ばれるほど、さまざまな楽器の響きをうまく使って、色鮮やかな作品を生み出しました。『ボレロ』は1928年に、イダ・ルビンシテインというダンサーから頼まれてバレエ音楽として作られた曲です。
 最初に小太鼓が「タンタタタ・タンタタタ・タッタッ|タンタタタ・タンタタタ・タタタタタタ」というリズムを静かに打って曲が始まります。このリズムは、スペインに古くから伝わるボレロという舞曲から取られていて、それが曲名にもなっています。このリズムは何度も何度も繰り返され、曲が終わるまでになんと169回も繰り返されます。やがてそこにメロディーが聞こえてきます。最初はフルートから、続いてクラリネット、そしてファゴットへ……というように、同じメロディーが楽器から楽器へと受け渡されていきます。メロディーは2種類ありますが、かわるがわる繰り返されます。楽器の数がだんだん増えていき、響きがどんどん豊かになっていくのが感じられるでしょう。最後はオーケストラ全員が一斉に演奏し、力強いクライマックスを迎えます。

コラム
音楽と色
その2 『ボレロ』を深掘り!

 今日のプログラムの最後に演奏されるラヴェルの『ボレロ』は、今年のテーマ「音楽の色いろ」について深く考えさせてくれる作品です。もう少し深掘りしてみましょう。
音楽、とくにヨーロッパで生まれたクラシック音楽は、基本となる3つの要素があります。リズム、メロディー、ハーモニーです。リズムとメロディーはわかりやすいと思います。ハーモニーとは、音と音とを重ね合わせた響きや、それらがつなげられて調和を作っていくことです。
 さて、『ボレロ』の解説では、169回も小太鼓が同じリズムを繰り返していること、メロディーも2種類だけが交互に出てくると紹介しました。そしてハーモニーも大きくは変わりません。


  • 小太鼓のリズム



  • メロディー1



  • メロディー2



 『ボレロ』は演奏に15分ほどもかかる曲です。リズムもメロディーもハーモニーも大きく変わらないなら、聴いている人はすぐに飽きてしまってもおかしくありません。
 ところが、大きく変わるポイントがあります。それが楽器の「音色」なのです。2種類のメロディーは、フルート、クラリネット、ファゴット、小クラリネット、オーボエ・ダモーレ、トランペット、サクソフォーン……というように、次々といろんな管楽器が主役となって演奏されます。大事なのは、メロディーが同じだからこそ、楽器ごとの響き・音色の違いがいっそう際立つということです。
 また、オーケストラの楽器はどんどん重なり合うことで、少しずつ音が大きくなっていき、聴いている人はどんどん興奮していきます。ですからこの曲は、リズム、メロディー、ハーモニー以外の、「音色」「音量」も音楽にとってとても重要なのだ、ということを教えてくれます。単純な仕組みのようですが、“オーケストラの魔術師”ラヴェルによる大発明だったのです。

(文 飯田有抄)