プログラムノート

第63回 2017年12月16日(土)「クリスマス・パーティー」

鈴木美音:『はりねずみのベッド』じょ曲
フンパーディンク:オペラ『ヘンゼルとグレーテル』序曲
J.ウィリアムズ:
映画『ハリー・ポッターと賢者の石』より「ヘドウィグのテーマ」
アイヴズ:交響曲第2番 より 第5楽章
アンダーソン:『クリスマス・フェスティバル』

プログラムノート 飯田有抄(音楽ライター)

 「楽器ア・ラ・カルト」をテーマに、いろいろな楽器の魅力に迫る今年のこども定期演奏会。第3回の今日は「クリスマス・パーティー」です! おいしいご馳走をもちより、みんなでパーティーを楽しむように、オーケストラ、そしてオルガンの素敵な響きを味わいましょう。

「こども定期演奏会2017」テーマ曲
鈴木美音:『はりねずみのベッド』じょ曲

鈴木美音さん(小学校2年生)からのコメント
 えんそう会がはじまる時のきもちを考えていたら、すごくわくわくして楽しいメロディーがうかんできました。
 曲といっしょに、ハリネズミきょうだいが出てくるものがたりも考えました。
 かわいくてウキウキするかんじがとても気に入っているので、たくさんのがっきでえんそうしてもらえるのを楽しみにしています。
 わたしがもっと大きくなって音楽のべんきょうをいっぱいしたら、ものがたりのさいごまで、オーケストラのがくふを書いてみたいです!!

フンパーディンク:オペラ『ヘンゼルとグレーテル』序曲

 みなさんはグリム童話『ヘンゼルとグレーテル』をきっとよくご存知でしょう。貧しい木こりの子どもヘンゼルとグレーテルの兄妹が森の中で迷い、お菓子の家を見つけます。でもそれは二人を食べてしまおうとする怖い魔女のワナでした。兄妹は捕まってしまいますが、賢い二人は魔女の思い通りにはならず……というお話ですね。
 この物語をオペラにした作曲家がいました。ドイツの作曲家エンゲルベルト・フンパーディンク(1854~1921)です。フンパーディンクは、大作曲家ワーグナーに憧れていました。ワーグナーは音楽と言葉と舞台とを結びつけ、「楽劇」と呼ばれるスケールの大きな舞台作品をいくつも作っていました。あるときワーグナーは、フンパーディンクに舞台の準備を手伝ってほしいとお願いしました。それは、ワーグナーの傑作『パルジファル』のための手伝いでした。その仕事をきっかけとして、フンパーディンクはいつか自分も舞台作品で成功をおさめたいと夢見るようになりました。その願いを叶えられた作品が、オペラ『ヘンゼルとグレーテル』なのです。
 原作のグリム童話には、子どもたちを森に捨ててしまおうとするお母さんや残酷な魔女が登場する恐ろしい場面もありますが、フンパーディンクの音楽には暗いムードはありません。オペラの最初に演奏される序曲には、ほのぼのと温かみのあるメロディーや、キラキラと輝くようなオーケストラの響き、ウキウキするようなリズムも登場します。このオペラの台本は、フンパーディンクの妹アーデルハイト・ヴェッテが書きました。兄妹が残した傑作オペラなのです。

J.ウィリアムズ:
映画『ハリー・ポッターと賢者の石』より「ヘドウィグのテーマ」

 魔法が使えたらいいのにな……そんな風に思ったことはありませんか? 本や映画で有名な『ハリー・ポッター』シリーズは、魔法使いの少年ハリー・ポッターが活躍する物語。魔術学校での生活、仲間との友情や冒険、そして悪い魔法使いとの闘いなどを通じて、主人公のハリーがたくましく成長する様子が描かれています。子どもから大人までみんなが夢中になってしまうハリーのお話は、イギリスの作家J. K. ローリングが書きました。小説は7巻まであり、それぞれが映画にもなりました。その第1作目が『ハリー・ポッターと賢者の石』です。この本は日本で1999年に発売され、映画は2001年に公開されました。
 今日はこの映画のために作られた音楽の中から「ヘドウィグのテーマ」を、サントリーホールの大きなオルガンによる演奏で聴いてもらいます。「ヘドウィグ」とは、ハリー・ポッターの飼っている真っ白でふわふわしたフクロウの名前。とても賢くて、ハリーのお手紙を運んでくれたり、愛情を示してくれる相棒です。「ヘドウィグのテーマ」は、映画ハリー・ポッターを代表する曲でもあり、シリーズ全体にそのモチーフが使われています。不思議な魔法の世界に迷い込むような冒頭は、きっとだれでも耳にしたことがあるでしょう。
 この曲を作ったのは、アメリカの作曲家ジョン・ウィリアムズ(1932~)。映画『スター・ウォーズ』『スーパーマン』『E.T.』『ジュラシック・パーク』などの数々の名テーマ曲を作曲した人です。

アイヴズ:交響曲第2番 より 第5楽章

 続いては、アメリカの作曲家チャールズ・アイヴズ(1874~1954)の作品です。アイヴズは、作曲家としては少し変わった経歴を持っています。最初に音楽を教えてくれたのは、軍楽隊のバンドリーダーだったお父さんです。その後、地元コネチカット州の名門イェール大学でもすぐれた音楽家をたくさん育てた先生に教わりました。それにも関わらず、大学卒業後、彼は故郷の街から近いニューヨークの保険会社で働きはじめました。のちに自分の保険会社を作るほど、30年も熱心に保険の仕事をしたのです。
 しかし一方で、アイヴズは作曲をやめてしまったわけではありませんでした。むしろ、作曲でお金を稼いで暮らしを支える必要のない分、彼はのびのびと自分の書きたいように作品を書き続けたのです。19世紀のロマン派風の音楽から、真新しい技法を取り入れた斬新な音楽まで、いろいろなタイプの曲を同時に(!)作っていたそうです。そして一度書いた作品を、長い時間をかけて何度も練り直すことをしていました。なので、アイヴズの作品はどの曲を実際には何年に完成させたのか、なかなか特定が難しいとされています。
 今日演奏される交響曲第2番も、年代にはいくつかの説がありますが、作曲をスタートしたのは20代の半ば。実際にオーケストラによって演奏されたのは1951年2月、アイヴズは76歳でした。その直前にも終わりの部分に手を加えたようです。
 曲は全部で5つの楽章からなります。曲のあちこちに、アメリカで19世紀半ばに生まれた歌曲「草競馬」、アメリカ民謡の「藁の中の七面鳥」、愛国歌「美しきアメリカ」などのメロディーが顔を覗かせます。今日演奏される第5楽章にも「草競馬」や「コロンビア、大洋の宝」というアメリカの軍楽隊がよく演奏する曲のメロディーが登場します。少年時代に聴いたお父さんの軍楽隊の調べを、アイヴズは作品の中に懐かしく散りばめたのかもしれません。


アンダーソン:『クリスマス・フェスティバル』

 いよいよクリスマスが近づいてきましたね。この季節になると、街のいたるところでクリスマス・ソングが流れています。古くから愛されているクリスマス曲の一つに、『そりすべり』があります。鈴の音がシャンシャンと鳴り響き、今にもサンタクロースがトナカイの引くソリに乗ってやってきそうな音楽です。きっとみなさんもどこかで耳にしたことがあるはず。とてもワクワクするメロディーです。
 その名曲はアメリカの作曲家ルロイ・アンダーソン(1908~75)という人が作りました。アンダーソンは、当時人々が文章を打つ時に使った機械の音をオーケストラに加えたり、紙やすりをシャシャシャ…とこする音を使うなど、ユーモラスな作品で人気を博しました(『タイプライター』と『サンドペーパー・バレエ』という作品です)。また、テレビ番組のテーマ曲ともなった『シンコペイテッド・クロック』や、夢見るように美しい『舞踏会の美女』といった素敵な曲もあります。オーケストラの名曲というと、スケールが大きく立派な雰囲気の曲が多いですが、アンダーソンの作品はどこまでも親しみやすく、人々の心にそっと寄り添うような軽やかな響きが魅力です。彼の音楽に心なぐさめられる人も多く、愛され続けています。
 そんなアンダーソンが、数々のクリスマス・ソングをメドレーにしてオーケストラ曲に仕立てました。「もろびとこぞりて」「ひいらぎ飾ろう」「ゴッド・レスト・イー・メリー、ジェントルメン」「ウェンセスラスはよい王様」「天には栄え」「きよしこの夜」「ジングル・ベル」「神の御子は今宵しも」といったクリスマスの定番曲が次々と登場します。みなさんは何曲知っているでしょうか? オーケストラの華やかなサウンドとともに、クリスマス気分を盛り上げましょう!