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プログラム・ノート
   
プログラム 2007年10月13日(土)
 
第22回 海を越える握手
リムスキー=コルサコフ:交響組曲『シェエラザード』から「海とシンドバッドの船」
チャイコフスキー:弦楽のためのセレナードから第4楽章
ドビュッシー:『海』から第1曲「海の夜明けから真昼まで」
ラロ:チェロ協奏曲ニ短調から第3楽章
チェロ:上野通明
スーザ:海を越える握手
ルーセル:『バッカスとアリアーヌ』第2組曲からフィナーレ
 
海と音楽
 
 プログラムノート 有田 栄(音楽学)
   リムスキー=コルサコフ:交響組曲『シェエラザード』から「海とシンドバッドの船」
 
ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844-1908)は、ロシアの有名な作曲家です。こどものころの彼は音楽に夢中で、あしたは演奏会に行く、という前の晩には、眠れないくらい興奮してしまうのでした。けれども、家のしきたりで音楽学校には行かず、12歳の時に海軍の軍人になるための学校に入りました。海軍の仕事をしながら、彼は音楽の勉強をつづけます。その努力が実って、やがてオペラやオーケストラの作曲家として活躍することになります。
きょう聴いていただく『シェエラザード』は、ロシアやヨーロッパにも古くから伝えられていた、「アラビアン・ナイト(千夜一夜物語)」という民話にもとづく音楽です。
ペルシャのシャハリヤール王は、お后をみんな殺してしまう、おそろしい王でした。けれどもこんどのお后は、かしこい娘シェエラザード。彼女は夜になると、王に不思議な物語を話してきかせました。王は、それがあまりにおもしろいので、続きを聞きたくなり、その日は彼女を殺すのをやめることにします。ところが次の日も、次の日も・・・「アラジンと魔法のランプ」や「アリババと盗賊」の話を聞くうちに、とうとう千と一日がすぎ、王はすっかり気持ちが変わって、シェエラザードと幸せにくらしましたとさ。聴いていただくのは、アニメや映画にもなった、有名な「船乗りシンドバッドの冒険」の物語です。
 
   
   チャイコフスキー:弦楽のためのセレナードから第4楽章
 
ピョートル・チャイコフスキー(1840-93)もロシアの作曲家です。リムスキー=コルサコフと同じころ、オペラやバレエの作曲家として活躍しました。チャイコフスキーは、こどものころから音楽家になりたかったのですが、家がまずしく、苦労して働きながら音楽の勉強をつづけました。
有名な作曲家になってからも、彼は、人からひどい目にあわされたり、困ったり、くじけそうになったりすることが何度もありました。けれども人間ならだれでも、明るく希望にあふれている時もあれば、つらく苦しい時もあります。それが人生というものです。だからこそ、小さな幸せを大切にしたい.人生の荒波にもまれてきたチャイコフスキーは、その思いを、音楽の中で表したいと思っていました。彼は、大好きなモーツァルトのことを考えながら、モーツァルトの音楽を聴いている時の幸せな気持ちを考えながら、この曲を書いたと言われています。聴いていただく第4楽章は、ロシアの民謡のメロディを使った音楽です。
 
   
   ドビュッシー:『海』(三つの交響的スケッチ)から 第1曲「海の夜明けから真昼まで」
 
フランスの作曲家、クロード・ドビュッシー(1862-1918)は、もし音楽家にならなかったら船乗りになっていたというほど、海が好きな人でした。
海には、いろいろな表情があります。かがやく朝の海、まっくらな夜の海。嵐の時の、とどろく波の音。風がやんで波がなくなる「なぎ」の時の、鏡のような静けさ。金や、銀や、緑や、むらさきや、燃えるようなだいだい色に変わる水の色。あちらへ、こちらへ、ゆれ動く・・・。ドビュッシーの心の中には、そうしたさまざまな海のイメージが、くっきりと焼きつけられていました。  この作品は、ドビュッシーの心の中の海を、オーケストラで描いた音楽なのです。この曲の楽譜には、日本の葛飾北斎という人が描いた海の版画が使われました。ドビュッシーは、いつか自分も船にゆられて、海の向こうの国に行くことを夢見ていたのかもしれませんね。
 
   
   ラロ:チェロ協奏曲ニ短調から第3楽章
 
エドゥアール・ラロ(1823-92)も、フランスの作曲家です。小さいころからヴァイオリンとチェロの勉強をしていた彼は、将来音楽家になろうと決めていました。けれども両親は反対し、彼を軍人にしようとしました。どうしても音楽の道に進みたかったラロは、家出して、たったひとりでパリの町に向かいました。彼が16歳の時のことです。
作曲家となったラロの音楽は、パリの一流の演奏家たちの目にとまり、つぎつぎに演奏会でとりあげられました。この『チェロ協奏曲』も、とても人気のあった作品です。なぜって、自分もチェリストだったラロは、チェロという楽器を、だれよりもよく知っていたからです。チェロは、深く響く美しいねいろを持ち、メロディを力強くも、はげしくも、甘く、やさしくも歌うことができます。お聴きいただくこの曲にも、とても表情の豊かなメロディがあふれています。
   チェロ:上野通明
 
1995年パラグアイに生まれる。5歳よりチェロを始め、2001年よりスペイン・バルセロナに在住。バルセロナ音楽学校・コルデスジュニアコンクール第2位。姉二人とトリオを組み、サン・アナスタシ室内楽コンクール第1位入賞。アルジャウ・カタロニア若い演奏家の為のコンクール弦楽器部門第1位、同室内楽部門1位。アジアフェスティバルに参加、カタロニア音楽堂にてコンサートを開く。2004年に帰国後、第5回泉の森ジュニアチェロコンクール銀賞(最高位)、第15回日本クラシック音楽コンクール第3位、第8回日本演奏家コンクール第1位。これまでに馬場省一、イニアキ・エチェパレ各氏、現在、毛利伯郎氏に師事。新宿区立四谷小学校6年。
 
   
   スーザ:海を越える握手
 
アメリカの作曲家ジョン・フィリップ・スーザ(1854-1932)は、たくさんの行進曲を作曲した「行進曲の王」です。13歳の時、彼はアメリカ海兵隊の軍楽隊に見習いとして入り、のちには、指揮者もつとめるようになります。この軍楽隊は、大統領のために演奏することができる特別な軍楽隊で、その指揮者というのはたいへんな名誉なのです。スーザは、軍楽隊をやめてからも音楽をつづけ、戦争中には、水兵たちをあつめてバンドをつくり、兵士や人々を音楽ではげましました。
ですからスーザの音楽は、アメリカの人々にとって、祖国への愛とほこりのシンボルなのです。この『海を越える握手』は、『星条旗よ、永遠なれ』とならんで有名な曲。スーザが、そのとき読んでいた本の中の言葉から、題名がつけられたといいます。アメリカがスペインと海で戦った時に、イギリスの軍隊が助けてくれたことを記念するために作られたのだ、という人もいます。みなさんは、どんな「握手」を想像しますか?
 
   
   ルーセル:『バッカスとアリアーヌ』第2組曲からフィナーレ
 
フランスの作曲家、アルベール・ルーセル(1869-1937)には、こどものときからずっと、大切なふたりの恋人がいました。それは「音楽」と「海」です。
18歳の時、彼はあこがれの海軍の学校に入り、大きな軍艦に乗って、はるか遠くにまで航海しました。けれどもどうしても音楽が忘れられず、陸にもどって作曲の勉強をはじめました。ルーセルは、とても冒険心が強く、知らないところへ旅行するのが大好きでした。まるで港から港へと旅する船のように、彼は、いつも新しい音楽の世界を求めて旅をつづけたのです。
『バッカスとアリアーヌ』は、古代ギリシャの物語をもとにした作品で、もとはバレエのための音楽です。恋人に裏切られ、島におきざりにされたアリアーヌは、悲しみのあまり、岩の上から身を投げてしまいます。けれども酒の神バッカスに助けられ、ふたりは恋におちて結婚することになります。バッカスがアリアーヌに与えた美しい冠は、空の「かんむり座」の星だといいます。聴いていただく音楽は、バッカスのくちづけを合図に、バッカスのけらいたちがにぎやかに踊り出す場面です。
 
   
   海と音楽
 
名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実ひとつ.この歌を知っていますか?
浜辺に流されてきたやしの実を見て、おまえはどこから旅してきたんだい、どのくらい海をさまよっていたのだい、という歌です。たしかに、海をじっと見ていると、この水平線の向こうには何があるんだろう、と思いますよね。
日本のように、国のまわりを海に囲まれた多くの島国では、むかしから、海をわたって神さまがやってくるという言い伝えがあります。日本にはじめてヨーロッパ人がやってきたり、大きな黒船がやってきたのもやはり海から。海は、陸ではけっして知ることができない、新しいものと出会う場所。見知らぬものと、かたい結びつきの握手をかわす場所なのです。
きょう聴いていただく音楽が生まれたヨーロッパも、北と、西と、南の三方を海で囲まれています。とくに南の海、地中海は、おおむかしから西と東、ヨーロッパとアジアやアフリカをつなぐ「海の道」でした。海の道を通って行き来する人々と一緒に、たくさんの音楽が、色とりどりの文化が運ばれていきます。
古代ギリシャや古代ローマの人々は、この地中海を舞台に活躍しました。ヨーロッパの人がみなよく知っている「ギリシャ神話」や「ローマ神話」には、海にまつわる話がたくさんあります。10年間も海をさまよったオデュッセウス。金の羊毛を探しに行ったイアソン。そして旅に出た先で、アリアーヌとめぐりあったバッカス。音楽や詩の題材になった、これらのどの物語の主人公も、海に出たことで、自分でも思いもよらなかった新しい運命と出会うのです。
きょうの作曲家たちの何人もが、海にまつわる仕事をしていた人だというのは、おもしろいぐうぜんです。またふしぎなことに、「こどものころ船乗りになりたかった」という音楽家は、けっこう多いのです。どうしてなのでしょうか。
船乗りだったリムスキー=コルサコフの音楽には、彼が体で感じていた海のすべて.大きな波のうねりや、風の音や、空や水の色が描かれています。
私たちにもそれが感じられるような気がしませんか。また、冒険の好きなルーセルの音楽には、彼が海の向こうで出会った、人々や音楽の思い出が描かれています。みなさんにもそれが聴こえるでしょうか。
   
 
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