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プログラム・ノート
   
プログラム 2005年4月9日(土)
 
第14回『ロンドン』〜伝統とメロディー〜
クラーク(パーセル):トランペット・ヴォランタリー
ヘンデル:『水上の音楽』から「アレグロ」
ブリテン:『シンプル・シンフォニー』から「感傷的なサラバンド」
ビートルズ・メドレー(編曲:長山善洋)
イエスタディ、オブラディ・オブラダ、ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード、ノルウェーの森、プリーズ・プリーズ・ミー
ホルスト:『惑星』から「火星」
ドヴォルザーク:交響曲第8 番ト長調 第3 楽
  ヴォーン=ウィリアムズ:グリーンスリーヴズの主題によ幻想曲
  エルガー:行進曲「威風堂々」第1 番
 
音楽のまち(2) ― パリ
音楽のまちの風景
 
 プログラムノート 有田 栄(音楽学)
   クラーク:トランペット・ヴォランタリー
 
はなやかなトランペットの音で有名な『トランペット・ヴォランタリー』は、今から300 年くらい前に、イギリスの作曲家ジェレマイア・クラーク(1674 頃- 1707 )が作曲しました。『デンマーク王子の行進曲』という題名でも知られています。以前は、クラークと同じ時代に活躍したヘンリー・パーセル(1659- 95 )の作品と考えられていました。「ヴォランタリー」とは、教会で、礼拝(祈りの儀式)が始まる時や終わる時に演奏される音楽のことをいいます。この曲にも、そうしたおごそかな雰囲気があります。20 世紀の指揮者、ヘンリー・ウッドが演奏会で取り上げたのをきっかけに大変有名になり、結婚式など、いろいろな儀式の始まりを告げる音楽として演奏されるようになりました。
 
   
   ヘンデル:『水上の音楽』から「アレグロ」
 
ジョージ・フリデリック・ヘンデル(1685- 1759 )は、バッハと同じころに活躍した作曲家です。もとはドイツの人でしたが、イギリスに帰化(その国の人になること)して、一生のほとんどをイギリスですごしました。ヘンデルは、人を楽しませる音楽を書く天才でした。彼のオペラは、毎回新しいしかけが隠してありました。また屋外で、花火を打ち上げながら音楽を演奏したこともあって、その時にはロンドン中の人が1 万人以上も集まり、交通渋滞が起きたほどだったといいます。こ の『水上の音楽』も、ヘンデルが、イギリス国王ジョージI 世のために考えた、とっておきの催し物でした。1717 年のある夏の日のこと。ロンドンのテムズ川を、たくさんの舟がのぼっていきます。舟には、国王や貴族たち、そして何十人ものオーケストラが乗りこんで、音楽を演奏するのです。国王も、川ぞいの見物人たちも大喜び。王は、音楽を何度もくり返して演奏させたといわれています。
 
   
   ブリテン:『シンプル・シンフォニー』から「感傷的なサラバンド」
 
エドワード・ベンジャミン・ブリテン(1913- 76 )は、20 世紀のイギリスを代表する作曲家。こどもたちにオーケストラの面白さを伝えたい、と書いた『青少年のための管弦楽入門は』はこの「こども定期」でも何度かとりあげたことがあります。
ブ リテンは、バッハやヘンデルが活躍した「バロック」の時代や、その前の「ルネサンス」の時代の音楽にとても興味を持っていて、自分でもそうした時代の音楽をよく演奏していました。彼の作品の中には、その時代の音楽のメロディがしばしば登場します。『シンプル・シンフォニー』は、ブリテンが9 才ぐらいのころから考えていたアイディアやメロディをもとに、21 才の時に作曲した曲です。バロック時代のシンフォニーにならって、舞曲(踊りのための曲)のような短い曲4 つからできています。聴いていただく「感傷的なサラバンド」の「サラバンド」は、フランス風のゆっくりとした舞曲です。
 
   
   ビートルズ・メドレー
 
みなさんは、「ビートルズ」というグループを知っていますか? みなさんのお父さんやお母さん、おじいさんやおばあさんに、「ビートルズの歌を歌って」とお願いしてごらんなさい。必ず何か一曲はメロディを口ずさんでくださるにちがいありません。そのくらい、世界中で親しまれている音楽なのです。ビートルズが結成されたのは、今から40 年以上前の1962 年。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソン、リンゴ・スター。彼らは、イギリスのリヴァプールという町の出身の若者たちでした。1970 年に解散するまで、数え切れないほどのすてきなメロディを生み出したビートルズ。きょうはその中から、『イエスタデイ』、『オブラディ・オブラダ』、『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ ロード』、『ノルウェーの森(鳥は飛んでいった)』、『プリーズ・プリーズ・ミー』をおおくりします。
 
   
   ホルスト:『惑星』から「火星」
 
グスタヴ・ホルスト(1874- 1934 )は、学生のころから、インドや日本など東洋の文化にとても興味を持っていました。「せわしないこの世にとらわれず、自然や宇宙の呼吸を感じて生きなさい」というインドの古い教えに、ホルストはとても心をひかれました。そして自分もまた音楽の中で、大自然や、果てしない宇宙を描こうとしたのです。『惑星』は、地球とともに太陽のまわりを回っている7 つの星たちをテーマにした曲です。そうした星々は、昔からさまざまな神の姿だと考えられてきました。「火星」は、マルスという戦争の神。古代ローマでは、若者が軍隊に入る儀式を3 月に行なっていたので、マルスは「春」や「若さ」も表わしています。ホルストは、力強く、生き生きとした音楽でこの神の姿を描きます。
 
   
   ドヴォルザーク:交響曲第8 番ト 長調 第3 楽章
 
アントニーン・ドヴォルザーク(1841- 1904 )は、今から100 年ほど前に活躍していたチェコの作曲家です。「新世界から」という題名でも知られる有名な交響曲もそうですが、彼の音楽には、いつもすばらしいメロディがあふれています。ドヴォルザークは、そうしたメロディを生み出すアイディアを、ふるさとのチェコをはじめさまざまな土地の民謡から得ていました。ふるさとの歌を愛する気持ちは、世界中どこの国も同じ。ですから彼の曲は、当時も今もチェコだけでなく、ヨーロッパやアメリカ、そして日本など、多くの国で愛されています。なかでもとりわけドヴォルザークの音楽を気に入っていたのが、イギリスの人々でした。ドヴォルザークは、イギリスを9 回も訪れて演奏会を開き、そのたびに大歓迎を受けています。この『交響曲第8 番』も、ほかのどこよりも先にイギリスで楽譜が出版されたために、「イギリス」という名前で呼ばれてきた作品です。
 
   
  ヴォーン=ウィリアムズ:グリーンスリーヴズの主題による幻想曲
 
音楽は、私たちの日々のくらしの中から生まれるものだ??レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ(1872- 1958 )は、いつもそう考えていました。彼は、イギリス人ならだれもが知っているような、民謡のメロディをもとに音楽を書き続けた人です。彼の音楽は、さきほどのホルストの音楽とともに、ビートルズや、イギリスで誕生した「プログレッシヴ・ロック」と呼ばれる音楽にも、大きな影響を与えているんですよ。お聴きいただくのは、『グリーンスリーヴズ』という古い歌のメロディをもとにした作品。「ああ!私は愛する人にうらぎられ、冷たく捨てられてしまった。緑のそでの服を着たあの人だけが、私の宝、私の喜びだったのに・・・」という悲しい恋の歌です。とちゅうから、『いとしのジョーン』という別の民謡も登場します。
  エルガー:行進曲「威風堂々」第1 番
 
エドワード・エルガー(1857- 1934 )の故郷は、イングランドのウスター。美しい自然と、昔ながらの姿が残る町です。エルガーは、ほとんど一人で音楽を学び、本格的に作曲の仕事を始めたのは、もう30 歳をすぎてからでした。けれども彼は、音楽家としてイギリス中の人々の尊敬を集め、ヴィクトリア女王、エドワードVII 世、そしてジョージV 世と、代々のイギリス王からさまざまな儀式の音楽を任されるほどでした。『威風堂々』は、エルガーの作品の中でも一番人気のある作品です。勇ましい行進曲の部分にはさまれた真ん中の部分のメロディはことに美しいもので、エルガーはこれに歌詞をつけて『希望と栄光の国』という歌にしました。「希望と栄光の国、自由の母よ。あなたから生まれた私たちは、あなたをどれほどほめたたえればよいだろう」というこの歌は、「第2 のイギリス国歌」とも言われています。
   音楽のまち(2) ― パリ
 
最近人気の『ハリー・ポッター』や映画の『ロード・オブ・ザ・リング』などは、イギリスの人々の生活に今も息づいている、古い伝統を題材にした物語です。そこには、古代のケルト人、アングル人、サクソン人、デーン人、ノルマン人、ローマ人など、海をこえてイギリスにやってきた、さまざまな民族の文化が流れ込んでいます。それは音楽も同じ。イギリスの音楽には、いろいろな民族の音楽から受け継がれてきたメロディや、ハーモニー、楽器、リズムの伝統があります。そのため、イギリスは、昔からヨーロッパ大陸とはちがう、独特な音楽の文化を持っていると言われてきました。それでいながら、ビートルズのように、時代の最先端を行くような音楽が出てきて、世界中を熱狂させたりもする。??イギリスの音楽には、そんな不思議な魅力があります。イギリスの人々の音楽好きも、伝統的なものです。今から250 年ほど前、まだ音楽が王や貴族だけの楽しみだったころに、誰でも音楽を楽しむことができる演奏会がまっさきに開かれたのがロンドンの町でした。野外のコンサートや音楽祭は、現在でも各地でよく開かれ、人々はみなピクニックの気分で、気軽に音楽を聴きに出かけます。一番有名で盛大な音楽祭は、毎年夏にロンドンで開かれている「プロムス」でしょう。ロイヤル・アルバート・ホールの中には、立ち見の人でいっぱい。入りきれない人は近くの公園に集まり、スクリーンで音楽を楽しみます。そこで必ず演奏されるのが、エルガーの『威風堂々』。この曲が始まると、観客たちはじっとしていられません。全員がリズムに乗って体をゆらし、大きな声を合わせて、ほこらしげに歌い出します。きょう聴いていただく作品は、イギリスの人々が、美しいメロディ、美しい音楽を本当に心から愛し、大切にしているということが分かるものばかりではないでしょうか。エルガーが『ミュージック・メイカーズ』という作品に書いた次の詩は、そんな人々の心をよくあらわしています。??「私たちは音楽の作り手。心に夢をいだいて、たった一人で大海原に舟をこぎ出す。……だが私たちは、世界の心を動かし、ふるわせることができるのだ」。
 
   
   音楽のまちの風景
 
第2 回イギリス(ロンドン)編
大和田ルースさん(東京交響楽団 第1 ヴァイオリン奏者)


「音楽のまちの風景」第2 回は、きょうみなさんに聴いていただいた音楽の故郷「イギリス(ロンドン)」。日本にいらして17 年。日本語はもちろん、フランス語、ドイツ語、ラテン語……とたくさんの言葉に堪能で、お料理も上手な大和田ルースさんに、ご紹介いただきます。
●勇気づけてくれたお母さん

――ルースさんが生まれ育ったのは、どんなまちですか

ロンドンから南のほうに電車で30 分くらい行ったクロイドンというところです。ロンドンの町中より自然が多くて、とても住みやすいところです。ロンドンにすぐ出られるので、父も毎日通っていましたし、私もロンドンのロイヤル・カレッジにいたときは、3 年間うちから通っていました。うちから40 分ほどのサリーというとても美しい村には、ヴォーン=ウィリアムズの家があります。

――音楽の勉強を始めたのは?

7 歳のとき、父の友達がピアノを手放すことになり、その中古のアップライトピアノを3000 円で両親が買ってくれました。だいぶ前のこととはいえ、ずいぶん安いですよね。それでピアノのお稽古を始めたのです。10 歳のとき、新しい学校で仲良くなった友達二人が、学校の帰りにケースをもってどこかに行くのをみて、興味をもって一緒に行ってみたら、ヴァイオリンのレッスンに通っていたんです。私もやりたくなって、習い始めました。ピアノもヴァイオリンも両方大好きでしたが、12 歳のときに、ユースオーケストラ(こどものためのオーケストラ)に入って、ほかの人たちと一緒に演奏する楽しさを覚えてから、将来はオーケストラで弾けるようになりたいなと思い始めました。イギリスではユースオーケストラが盛んで、学校にもオーケストラがあるんです。合唱もやりました。毎週土曜はミュージックスクールに通って、日曜はユースオーケストラ、ピアノのレッスンもずっと続けていましたから、いつも音楽の練習で忙しかったですね。あと同じ学校に通う妹と一緒にガールスカウトの活動もしていました。アウトドア派なので、キャンプも大好です。

――音楽大学ではヴァイオリンを専攻したのですか?

ピアノとヴァイオリン両方です。ロンドンの大学は、ダブルで受験して、両方のコースをとることができるんです。いまはオーケストラが忙しくてピアノを弾く時間がないのが残念ですが、60 歳になったらピアノを再開して、あとヴィオラも練習したいと思っています。

――どんな音楽が好きしたか?
小さいときからずっとロマンティックな音楽が好きでした。いまもチャイコフスキー、ブラームス、エルガーが大好きです。ピアノでもシューベルトやブラームスを弾くのが好きでした。もともとスケールの大きい、シンフォニックな音楽が好きなのだと思ってます。

――イギリス音楽はメロディがきれいなものが多いですね
一度聴いたら忘れられないメロディ、親しみやすい音楽がたくさんありますね。きょう最後に演奏する行進曲「威風堂々」第1 番は、毎年、夏の音楽祭プロムスのラストナイト(最後の公演)で演奏される曲で、イギリスでとても人気があります。

――最初にオーケストラにはいったのは?
ドイツのパッサウという町にあるオペラ劇場のオーケストラです。小さいときに『サウンド・オブ・ミュージック』の映画をみて以来、ずっとオーストリア、ドイツに行きたいと憧れていました。大学を出てから3 年ほどこどもたちを教える仕事をしていましたが、どうしてもオーケストラに入りたくて、ここのオーディションを受けました。オーケストラの仕事のほかに、ピアノでいろいろな人の伴奏をしたのも楽しかったです。主人(東京交響楽団ホルン奏者の大和田浩明さん)との出会いもこのオーケストラで、彼の伴奏をしたのがきっかけです。第1 ヴァイオリンが6 人しかいない小さなオーケストラだったので、シンフォニーオーケストラに入って、大編成のブルックナーやマーラーが弾きたいとずっと思っていました。ですから、東京交響楽団に入ることができて本当に嬉しいです。

――日本にいらした当初はたいへんなことがあったと思いますが、なにに驚かれましたか?
一番驚いたのはお葬式です。日本にきて少したったとき、主人の父が亡くなってお葬式を出したのですが、イギリスは普通の家庭では日本ほど大きなセレモニーをしないので、とてもびっくりしました。日本では結婚式も豪華ですよね。私たちは、主人のボーナスで買った自転車で市役所に婚姻届を出しに行っただけです。イギリスでホームパーティはしましたが、セレモニーはしませんでした。そして当時はまだ英語の表示が少なかったので買い物に行っても、なにがなんだかわからなくて、間違ったものを買ってきてしまうということがよくありました。忘れられない失敗談としては、喫茶店でアイスコーヒーを頼んで、待っているときに小さなカップが出てきたので、お水だと思って飲み干してしまったら、ガムシロップだったんです。イギリスではアイスコーヒーを飲む習慣がないので、ガムシロップをみたのは、そのときが初めてでした。

――イギリスは紅茶が有名ですが、ルースさんのおうちでもティータイムがありましたか?
そうですね。学校から帰ると母と妹と一緒にティータイムを楽しみました。母が作ってくれたショートブレッド(ビスケット)やケーキを食べながら。料理は私も大好きですが、母の味が基本になっているような気がします。

みなさんからの質問にお答えします

――ヴァイオリンはどうやったら上手になりますか? こつがあったら教えてください。

むずかしい質問ですね(笑)。練習をたくさんやるのはもちろんですが、楽しくやることが大切と思います。弾いてみたい曲、好きなメロディを弾いてみるとか、楽しく弾ける工夫を考えてみてください。

――このまえの演奏会でピチカート(ヴァイオリンの弦を指ではじいて音を出す奏法)をみました。どうしてそういうふうに演奏するですか?
作曲家が楽譜に書いたからです。調べてみたら、ピチカートはルネサンス時代からあったようですが、よく使われるようになったのは、パガニーニの時代からです。ピチカート、グリッサンドや、スルポンティチェロ(駒の近くで弾く)など、いろいろな奏法ができるのが、ヴァイオリンの楽しいところだとおもいます。

――ヴァイオリンのみなさんは仲がいいですか?ライヴァルですか?
ライヴァルというより、仲間です。一緒に心をあわせて演奏しないと、いい演奏はできないのですよ。ヴァイオリンは二人一組になって同じ譜面をみて演奏するのですが、コンサートごとに席が変わるので、いろいろな人とコンビを組むのが楽しいです。オーケストラの楽しさは、たくさんの人が力をあわせてひとつの音楽を作り出すことです。

――質問を募集します

次回のテーマは「ウィーン」。ウィーンに留学したことのあるクラリネット奏者の小林利彰さんが登小林さんに聞いてみたい質問を、別紙に書いて、「オーケストラへの質問箱」に入れてください。郵便、E メールの場合は次の宛先にお願いします。

締切は7 月30 日です。
東京交響楽団「オーケストラへの質問箱」係
〒212- 8554 川崎市幸区大宮町1310 ミューザ川崎5F
e-mail:tokyosymphony@@musicinfo.com
   
 
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